国立情報学研究所(NII)が、日本の大学・研究機関の学術研究・教育促進のために構築、運営している日本最大の情報通信ネットワーク。SINETはScience Information Networkの略称である。学術情報ネットワークともいう。1987年(昭和62)に、大学間を接続するインターネットのバックボーンとして運用を開始した。
2016年(平成28)4月から超高速ネットワーク時代に対応したSINET5(ファイブ)が運用を開始し、2020年(令和2)8月の時点で、944の大学・研究機関が参加しており、利用者数は300万人を超える。
国内では、全都道府県にネットワーク接続拠点(ノード)を設置し、各ノードを100Gbpsの高速回線で結ぶネットワークを構築している。2019年12月からは東京―大阪間では、世界最高水準の400Gbpsの高速回線が運用を開始した。これによって、大学・研究機関が集中する関東、関西地区の通信需要増による回線逼迫(ひっぱく)を解消した。
アメリカに続き、2019年からアジア、ヨーロッパとも100Gbpsの高速回線で結び、東京―ロサンゼルス―ニューヨーク―ヨーロッパ(オランダ・アムステルダム)をリング状に結ぶネットワークが実現した。単独機関が世界を一周する国際回線網をもつのは世界で初めてである。
SINETによって、2021年から運用を本格的に開始する、理化学研究所のスーパーコンピュータ(スパコン) 「富岳(ふがく)」をはじめ、国立大学等に設置されている全国のスパコンが結ばれ、一つのアカウントで運用できる。複数の大学を結んだ「仮想大学LANサービス」が可能となり、大学間の連携が進む基盤が整備された。
データセンターへのアクセスも容易で、大規模なデータの蓄積と処理、スパコンの共同利用、論文など電子化された情報の共有(機関リポジトリ)、セキュリティに関するサービスの提供が受けられる。先端研究に不可欠な超高速インターネットはもちろん、各研究機関に安全環境を実現するVPN(Virtual Private Network)、オンデマンド、モバイル(移動通信)のほか、SINETと結ばれた民間会社の商用クラウドサービスなども受けられるようになっている。
これまでSINETを活用した研究では、国内の大型施設SPring-8(スプリングエイト)(大型放射光施設、兵庫県佐用(さよう)町)、J-PARC(ジェーパーク)(大強度陽子加速器施設、茨城県東海村)、海外の研究拠点LHC(大型ハドロン衝突型加速器、スイス・フランス)、ALMA(アルマ望遠鏡、チリ)などと結んで、大量のデータのやりとりが行われている。高速回線100Gbpsが運用を開始したことで、日欧間のデータのやりとりが活発化した。高エネルギー加速器研究機構(KEK(ケック)、茨城県つくば市)ではノーベル物理学賞受賞につながるなど研究成果に貢献している。高速回線が全国に普及したことで、地震予知にも恩恵をもたらした。全国各地の地震観測データを、マルチキャスト機能などを利用し各研究拠点に配信している。たとえば、東北大学と大阪大学、NECが開発した津波浸水被害予測システムでは、SINETによってデータが瞬時に送られ、地震発生30分以内に浸水域がどこまで及ぶのかを推計するのにも役だてられている。両大学のスパコンに大量のデータが集められることで、瞬時に計算できるのが特徴で、どちらかの大学が被災しても作業が滞ることがないのが強みである。天文、宇宙、核融合、高エネルギー物理学、生命科学、地震などの先端科学分野での利用が多い。疾病に関する医療情報や画像など、究極の個人情報を扱う、秘匿性の高いデータのやりとりも今後、利用拡大が期待されている。災害時に医療情報データが活用できるよう東西2か所にデータセンターを置き、バックアップ体制を構築している。
現在普及が進められている次世代通信規格「5G」では、大量のデータをモバイルでやりとりすることが可能になる。こうした高速大容量のデータをやりとりするモバイル時代にも、SINETの存在は重要性を増している。
教育分野でも盛んに利用され、希少な手術の中継、北海道から沖縄まで全国18の国立大学の農学研究科を結ぶ遠隔講義などが行われ、大学間の単位互換制度の実現に道を開いている。アメリカの主要大学が始めたオンラインによる教育「MOOCs(ムークス)」など、国内外の公開講座の配信が日本の大学でも本格化した。
文部科学省は、2025年までに小中高の児童・生徒に教育用パソコン、タブレット1人1台を配備し、それを使ってビッグデータを使った教育ができる環境を整備して、IT人材を育てる方針を発表している。これを実現するため2022年度までにSINETを学校に開放する。
SINETは、当初、大学内で閉じたLANを相互に接続する専用高速幹線(インターネットバックボーン)として構築されたが、インターネットプロトコル(IP)は用いられておらず、利便性は悪かった。1998年からインターネット相互接続を開始。2002年に、SINETとは別に「スーパーSINET」(SINET2)の運用が始まった。光通信技術を用い、10Gbpsで研究機関の間を結ぶ世界有数の高速インターネット網として構築された。
2007年には、SINETと、スーパーSINETを統合してSINET3(スリー)の運用が始まった。最大40Gbpsの通信速度を実現しただけでなく、無線LAN、携帯電話、光回線などとの接続が可能となり利便性は格段に高まった。目的などに応じて三つのネットワーク階層(レイヤLayer)から選択して利用できる。レイヤ1は専用線接続、レイヤ2は広域LAN間接続、レイヤ3はIPネットワーク。レイヤ1は高い品質が保証されている。
2011年に運用が始まったSINET4(フォー)は、クラウド時代に対応し、ネットワーク全体の高速化を図った。アメリカの研究教育用ネットワーク「Internet2」、ヨーロッパの「GÉANT(ジェアン)」など海外の大規模ネットワークと相互接続し、国際間の共同プロジェクトの基盤となってきた。
現在、世界ではさらなる高速ネットワークの構築が始まっている。Internet2、GÉANTのほか、イギリスの「Janet」、オーストラリアの「AARNet」など、海外では400Gbpsの高速ネットワークの構築や実験が進んでいる。こうした流れのなかで、SINET5に続く次期ネットワーク「SINET6(シックス)」(2022~2027年度)では、400Gbps網の全国展開、国際回線の増強(日米、日欧の国際回線(100Gbps)の複線化)、超高速モバイルと有線の融合などの実現を目ざして研究が進められている。
2020年12月11日