最低限暮らしに必要な現金を、無条件ですべての個人に死ぬまで定期支給すること。「基礎所得保障」「最低生活保障」などとよばれるほか、英語の頭文字をとってBIと略されることもある。社会福祉政策の一つで、一種の生活保障である。所得、資産、能力、職歴などの条件を問わずに支給されるうえ、生活保護や配偶者控除が世帯単位の給付制度であるのに対し、個人が対象であるという特徴をもつ。通常、ベーシックインカムの導入と同時に、雇用保険や生活保護などの複雑化した社会福祉制度の簡素化・一本化が検討される。給付額が暮らしていくのに十分な水準である場合は完全ベーシックインカム、それだけでは不十分で他の社会保障制度と組み合わせる必要がある場合には部分ベーシックインカムといわれる。ベーシックインカムは貧困の削減につながるほか、無条件支給なので審査などの手間がかからず、行政コストを圧縮できる利点がある。また社会福祉制度を簡素化できるため「小さな政府」の実現に役だつとされる。一方で、給付に膨大な費用がかかり、財政負担が重くなるほか、働かなくても給付を受けられるため勤労意欲を減退させる欠点があるとされている。
18世紀にベーシックインカム思想の萌芽(ほうが)がみられるとされており、トマス・ペインらの著作に最低限所得補償などの発想が盛り込まれている。最貧国の貧困や先進国の所得格差に関心が集まった21世紀に入り、ナミビア、インド、オランダなどでベーシックインカムの導入試験が実施され、2017~2018年に国家レベルの実験(月額560ユーロ給付)を初めて行ったフィンランドは、就労促進効果は限定的であるが、生活への満足度は高まったとの調査結果をまとめた。新型コロナウイルス感染症(COVID(コビッド)-19)流行による経済不況対策として、国連開発計画(UNDP)やローマ教皇が導入をよびかけ、スペインの低所得者向け生活最低限収入制度(単身生活者で月額最大462ユーロ支給)や日本の特別定額給付金(一律10万円支給)がベーシックインカムの類似制度であるとして導入論議が活発化した。日本では2017年(平成29)に民進党(当時)が日本型ベーシックインカム法案を国会に提出し、選挙時の公約に掲げる政党も相次いでいる。なお類似制度に、ミルトン・フリードマンが提唱した所得が課税基準に満たない人に不足額を給付する「負の所得税(negative income tax)」や、おもに社会主義者が提唱する「社会配当(basic allowance)」などがある。
2020年12月11日