地球温暖化の影響や対策に関する科学的知見を提供する国連の研究組織。略称IPCC。大洪水や大干魃(かんばつ)など温暖化に起因するとされる気候変動が深刻化したため、1988年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)が共同で設立した。2020年末時点で世界の195か国・地域が参加している。常設事務局はスイスのジュネーブにある。人為的に誘発した気候変動の危機に関する科学的、技術的、社会経済的な最新情報を集約し、その結果の評価を提供することを目的とする。各国政府などの推薦に基づき、世界の科学者や政府関係者が無報酬で参加し、すでに公表された論文などを検討・分析して最新の知見を報告する。独自に新たな研究をすることはなく、政治交渉も行わない。活動は(1)温暖化の自然科学的知見、(2)影響や被害対策、(3)温室効果ガス排出削減策の3作業部会Working Group(WG)に分かれて行われる。報告書には三つの部会報告とこれらを統合した評価報告書があり、公表にはすべての政府の受諾が必要である。とくに、専門家以外にもわかるように重要ポイントをまとめた「政策決定者向け要約」は1文ずつチェックされ、IPCC総会で全会一致での承認が必要となる。
これまでIPCCは1990年、1995年、2001年、2007年、2013~2014年と5~6年ごとに、計5回の評価報告書を公表し、2022年に第6次報告をまとめる予定である。第1次評価報告書は21世紀末までに気温が3℃上昇すると予測し、先進国の温室効果ガス排出抑制の合意を求めた。第2次では、開発途上国を含めた多くの国が対策に取り組む必要性を提案し、第3次では地域別評価を詳しく行い、第4次では21世紀末には平均気温が20世紀末より最大で6.4℃上昇すると指摘した。第5次報告では「温暖化の主因は人為的である可能性が95%以上」と断定し、有効な対策をとらない場合、21世紀末の世界の平均気温は2.6℃~4.8℃上昇し、海面は最大82センチメートル上昇すると警告した。また2018年には「1.5℃報告書」とよばれる特別報告書をまとめ、気温上昇幅を2℃から1.5℃に抑えた場合、2100年までの海面上昇が約10センチメートル少なく、リスクにさらされる人は最大1000万人減ると指摘。1.5℃に抑えるには、世界の二酸化炭素(CO2)排出量を2030年までに2010年比で45%減らし、2050年前後には実質ゼロを達成する必要があると提言した。報告書を基礎資料として温暖化対策の国際交渉が行われ、これまで第1次報告書が1992年の気候変動枠組み条約(UNFCCC)、第2次報告書が1997年の京都議定書の採択にそれぞれつながるなど、地球環境にかかわる国際的合意に大きな影響を与えている。
IPCCは2007年にノーベル平和賞を元アメリカ副大統領のゴアとともに受賞した。授賞理由は「人為的気候変動についての知識を広め、その対策に尽力」、さらに「人間活動と地球温暖化の関連についての共通認識をつくった」としている。
2021年3月22日