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日本大百科全書(ニッポニカ)

意匠

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意匠
いしょう

一般には装飾、図案などを意味し、英語のデザインdesignの訳語であるが、デザインという用語は、広く建築や公園のデザインのような造形に関する創作、設計案などを意味する場合にも用いられる。

 意匠は、法的には商品のデザインとして意匠法、著作権法、不正競争防止法などによりその保護利用などが図られている。意匠の重要性は、たとえば、店頭に並んでいる同種商品の性能、機能、材質および価格などが同程度であれば、需要者の商品選択の基準は色彩、形状、模様などデザインの良否に絞られることから明らかである。商品のデザインは、著作権法における応用美術として、また不正競争防止法における商品等表示ないし商品形態として保護されるものがあるが、その法的保護はおもに意匠法によって実現されている
[角田政芳]2021年4月16日

意匠法

前述のように商品のデザインとしての意匠は、需要者の商品選択の基準となるから、企業にとっては重要な経営資源となる。

 意匠の保護制度の起源は、1711年フランスのリヨンで絹織物業界における他人の図案の模倣を禁止したことであるといわれている。1787年イギリスでは「麻布、綿製品、キャラコおよびモスリンの意匠」に所有権を与える条例が制定された。1842年アメリカでは特許法の一部に意匠特許の規定がおかれ、1988年イギリスの「著作権、意匠および特許法」では、未登録の意匠権が導入され、いわゆる「パテントアプローチ」と「コピーライトアプローチ」による保護が、2001年の「欧州共同体意匠規則」に引き継がれている。

 日本における意匠の保護は、1888年(明治21)の「意匠条例」に始まり、1899年、1909年(明治42)、1921年(大正10)などの改正を経て1959年(昭和34)に現行法(昭和34年法律第125号)が制定された。

 現行の意匠法は、「意匠の保護及び利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする」と定めている(同法1条)。1998年(平成10)に創造的デザインの保護強化と国際化に対応する大幅な改正が行われ、2019年(令和1)の改正では、画像デザインと空間デザインにも保護が拡張され、2020年4月から施行されている。

 また国際的には、日本も加盟している「工業所有権の保護に関するパリ条約」(工業所有権保護同盟条約、パリ条約)や「知的財産権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS(トリップス)協定)」にも意匠に関する規定がおかれている。

 意匠法によって保護される意匠は、「物品(物品の部分を含む。以下同じ)の形状、模様若(も)しくは色彩若しくはこれらの結合(以下「形状等」という)、建築物(建築物の部分を含む。以下同じ)の形状等又は画像(機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限り、画像の部分を含む。<以下省略>)であつて、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう」である(同法2条1項)。

 2019年の改正までは「物品」でないものは保護されず、意匠は物品を離れては存在しないとされてきた(学説上、意匠と物品の不可分性とよばれた)。しかし、この改正により、「画像」の保護は、改正前には表示画像および操作画像のうち物品に記録・表示される画像に限られていたのが、改正後は物品に記録・表示されているか否かにかかわらず、クラウド上に記録されたアイコンのような表示画像や操作画像そのものを保護することとなった。もっとも、スマートフォンなどの壁紙等の装飾的な画像、映画・ゲーム等のコンテンツ画像のような、画像が関連する機器等の機能に関係のない画像については、改正後も保護されるわけではない。また「建築物」は、改正前に「物品」は「有体物である動産」を意味するとされて、意匠権で保護することはできなかったが、改正により「建築物」(不動産)についても意匠権で保護することができることとなった。さらに、改正前は複数の物品(テーブル、椅子、照明器具など)や建築物(壁や床の装飾)から構成される内装のデザインは、意匠登録を受けることができなかったが、改正により複数の物品や建築物、画像から構成される内装のデザインについても、「内装全体として統一的な美感を起こさせる」という要件を満たす場合に限り、一意匠として意匠登録を受けることができることとなった。このほか、法律上保護される意匠には部分意匠、組物の意匠(システムデザイン)も含まれる。

[角田政芳]2021年4月16日

意匠登録

意匠の登録は、創作された意匠に係る物品(物品の部分でもよい)または意匠に係る建築物もしくは画像の用途を明らかにし、意匠法、同施行規則などが規定する願書、図面(写真や見本でも代用できる)などを作成して特許庁に意匠登録出願をし、審査の結果、意匠法に定める新規性や創作非容易性などの登録要件を具備している意匠は、意匠権として登録原簿に設定登録され、意匠公報によって公開される。

[角田政芳]2021年4月16日

意匠権

産業財産権(工業所有権)の一つ。特許権、実用新案権など他の産業財産権と同様に登録意匠に対する排他的独占権であり、意匠権者は業として登録意匠およびこれに類似する意匠の実施をする権利を専有し、存続期間は、従来登録の日から20年であったが、2019年改正法により、出願から25年に延長された。財産権として、譲渡、相続、実施許諾、担保権設定が可能であり、意匠権の侵害に対しては、民事上は、差止請求権、損害賠償請求権、不当利得返還請求権および信用回復措置請求権などが認められ、刑事上は、従来3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金またはその併科であったが、2006年改正法により10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金またはその併科に引き上げられた。なお、意匠権侵害罪は非親告罪である。

 日本における意匠の出願件数および登録件数の過去5年間の推移は以下のとおりである。

●2015年
 出願件数 30,419
 登録件数 25,710
●2016年
 出願件数 30,658(前年対比:100.8%)
 登録件数 26,934(前年対比:104.8%)
●2017年
 出願件数 32,107(前年対比:104.7%)
 登録件数 27,337(前年対比:101.5%)
●2018年
 出願件数 31,008(前年対比: 96.6%)
 登録件数 27,371(前年対比:100.1%)
●2019年
 出願件数 31,162(前年対比:100.5%)
 登録件数 27,644(前年対比:101.0%)
(注)特許庁ホームページ「特許出願等統計速報」より
[角田政芳]2021年4月16日

©SHOGAKUKAN Inc.

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