国家の権力によって実行されるルールとしての法には、形式的意義と実質的意義とがあり、形式的意義においては、その名のとおりの法律(法典)を意味し、実質的には、その名で理論的統一的に理解できる法の分野を意味する。実質的意義における商法を企業法と理解する立場(企業法説)から、会社企業の存立と活動を保障し、企業をめぐる利害関係を調整することを目的とする法分野を、実質的意義における会社法とよぶ。会社法は、企業組織に関する法の中心として、企業法の重要な一領域に位置づけられる。会社企業が私的利益追求の動機に支えられて利用される以上、反社会的または非倫理的な行動がおこることは現実に少なくない。会社法は、そうした会社制度利用の弊害を除去し、その発生を予防して、会社企業の活動の適正化を図ることも目的としている。さらに、今日では、会社企業の価値を向上させるために、ガバナンスの強化をも図っている点が注目されている。会社法は、私的利益の合理的で効率的な調整を目的とする民事分野の実体法のルールを中心に構成されているが、その実現を確保するうえで機能的に関連する訴訟法のルールや、刑事分野の罰則のルールを含んでいる。
この実質的意義における会社法が現実に存在する形式(法源)として、会社法という名の法律(会社法典)がある。形式的意義における会社法とは、会社法典=「会社法」(平成17年法律第86号)のことをいう(2005年6月29日成立、2006年5月施行、対価柔軟化に関する規定は2007年5月1日施行)。
「会社法」は、会社法の現代語化(片仮名・文語体から平仮名・口語体への変更)にとどまらず、社会経済情勢の変化に対応した会社法制の現代化(規制緩和、会社経営の機動性・柔軟性の向上と健全性の確保)を目的として、従来の「商法」第2編、「株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律」(商法特例法)および「有限会社法」等に散在していた会社に関する法規律を一つの法典に統合して再編した法律である。
会社法の制定と同時に、「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」いわゆる会社法整備法が制定され、一部の法律の廃止、「商法」の一部改正、「有限会社法」等の廃止と「商法」の一部改正に伴う経過措置、その他の関係法律の整備等を定めた。また、会社法においては、技術的・細目的事項について、約20項目にわたる事項が政令に、約300項目にわたる事項が省令に委任され、会社法施行令、会社法施行規則、会社計算規則および電子公告規則が制定された(これらは、以後の関連法令の制定等により改正されている)。
現行の会社法は、「会社の設立、組織、運営及び管理については、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる」と規定して(1条)、全8編からなり、下記のような構成のもとに会社に関するもろもろの事項を規律している。すなわち、第1編「総則」(1条~24条。会社法の目的、定義等、会社に関する基本的事項)、第2編「株式会社」(25条~574条。設立、株式、新株予約権、機関、計算、定款変更、事業譲渡、解散、清算等、株式会社の組織・運営等に関する事項)、第3編「持分(もちぶん)会社」(575条~675条。合名会社、合資会社および合同会社の組織・運営等に関する事項)、第4編「社債」(676条~742条。社債に関する事項)、第5編「組織変更、合併、会社分割、株式交換、株式移転及び株式交付」(743条~816条。組織変更、合併、会社分割、株式交換および株式移転、株式交付の契約の内容、手続および効果等に関する事項)、第6編「外国会社」(817条~823条。外国会社に関する事項)、第7編「雑則」(824条~959条。会社の解散命令等・訴訟・非訟・登記・公告に関する事項)、第8編「罰則」(960条~979条。罰則に関する事項、および罰則)である。
2005年(平成17)制定の会社法では、形式的な改正として現代語化が行われ、用語・表記の修正、法典の整理統合、編立ての整理、規律の明確化と表現される改正作業が行われた。そこには、「法令工学」上、注目すべき諸点がある(ここに法令工学とは、法令の作成やその改定などを工学的基盤のうえで行う支援環境の構築を目ざす新しい試みをいう)。すなわち、会社形態を株式会社と持分会社とに類型化して、旧来の有限会社をも含む多様な株式会社の実態に即した法規範を整え、各会社による適用規範へのアクセスを容易にするために、工学的な発想やくふうが見受けられる。2000年代以降にみられる立法全般にわたるくふうと軌を一にして、詳細な定義規定を置くこともそうであるが、条文経済上の節約(条文数をなるべく増やさないようにすること、制度に共通項があればなるべく整理して条文を作成すること)をいとわず、従来の準用規定を極力用いないようにしている。
また、多様化した株式会社規律の整理にあたっては、典型的な株式会社像を対象として原則規定を設けたうえで(ミディアム・スタンダード方式)、閉鎖的な会社の例外や、大規模または小規模の会社の例外を、特例法を含めて用意するという従来の立場を改め、もっとも簡潔な形態の会社を対象とした規律を定めたうえで(ミニマム・スタンダード方式)、順次、必要に応じて複雑性を増す形態の会社を対象とした規律を付加していく立場をとっている。多様化する株式会社形態の規律を網羅していくうえで必要なくふうである。
さらに、対象の現象的な相違にかかわらず、適用すべき共通規律をみいだして、その共通規律を因数にもつ法概念を用意する手法が用いられている。法概念を数式になぞらえれば、いわゆる因数分解によって、必要な規律の本質を明らかにすることに資する。たとえば、自己株式の有償取得を、すべて横断的に「剰余金の分配」という概念のもとに整理し、分配可能額を超えてはならないとの財源規制を課している(461条1項)。
新しい単行法としての会社法の施行後も、社外取締役機能の活用をはじめコーポレートガバナンス(企業統治)の改善・強化についてさまざまな提言や取組みが行われた。また、日本企業の業績低迷や競争力低下、日本市場の国際的地位の低下に対する危機感や、経営に対する監督が有効に機能しないため日本企業のROA(総資産利益率)やROE(自己資本利益率)が欧米企業より低くなっているという懸念があった。他方で、持株会社を中心とした企業集団(企業グループ)の発展に伴い、企業集団としてのガバナンスを有効に機能させるため、会社法制定前から続く課題として、親子会社関係の規律(企業結合法制)について見直しが強く求められていた。
それらの議論を受けて、2014年に会社法が改正された(平成26年法律第90号。2015年5月1日施行)。この会社法の見直しは、会社法制定以来初の本格的改正であり、内容は、(1)コーポレートガバナンスの強化(取締役会の監督機能の強化、社外取締役・社外監査役の活用、監査等委員会設置会社制度の創設等)と、(2)企業結合法制の整備(多重代表訴訟制度等の親子会社規律の整備、特別支配株主の株式等売渡請求権等、組織再編規律の再整備)を大きな柱として、多岐にわたっている。あわせて、「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(平成26年法律第91号)が成立し、その後、会社法施行規則、会社計算規則および電子公告規則についても、必要な改正が行われた。
会社法は、さらに2019年(令和1)に改正され(令和元年法律第70号。2021年3月1日施行)、あわせて「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(令和元年法律第71号)が成立した。この会社法改正の内容として、(1)株主総会資料電子提供制度の導入や株主提案権制度の修正等による株主総会に関する規律の見直し、(2)取締役報酬規律の改善や社外取締役の活用の義務づけ等による取締役に関する規律の見直しを中心に、(3)その他、社債管理補助者制度の導入や株式交付制度の新設が行われている。