2011年(平成23)3月11日の東北地方太平洋沖地震により発生した東京電力福島第一原子力発電所事故の影響で放射線量がきわめて高く、政府が長期にわたって住民の立入りを制限している地域。住民の生命・身体の危険を防ぐため、政府が立入りを原則禁止する避難指示区域。1年間の積算放射線量が50ミリシーベルトを超える地域である。国際原子力機関(IAEA)などの国際機関の基準を考慮し、20ミリシーベルト以上の地域に居住し続けると、人体に影響を及ぼすおそれがあると判断した。事故10年後の2021年(令和3)3月時点で、福島県の富岡(とみおか)町、大熊(おおくま)町、双葉(ふたば)町、浪江(なみえ)町、葛尾(かつらお)村、飯舘(いいたて)村、南相馬(みなみそうま)市のそれぞれ一部が該当。総面積は名古屋市とほぼ同じ337平方キロメートル、避難対象住民は約2万4000人にのぼる。
区域境界にはバリケードなど物理的防護施設を設け、警察が検問し、住民に避難の徹底を求める。例外的に、住民の一時立入り、主要道路の通過交通、防災など公益を目的とした立入りなどを認めるが、市町村長が発行した通行証が必要で、防護服着用や線量計所持を徹底し、個々の被曝(ひばく)線量を測定して健康に害が及ばないようにする必要がある。区域内での宿泊はいっさい認めない。帰還困難区域の住民には、精神的損害に対する賠償として、1人一律1450万円が東京電力から支払われた。区域内の不動産や住宅は「全損」扱いとし、福島第一原発事故前の価格で全額を東京電力が賠償した。ただ長引く避難で精神的苦痛を受けたなどとして、避難住民の東電への訴訟が相次ぎ、賠償額の上乗せを命じる10以上の地裁・高裁判決が出ている。
政府は避難指示区域を段階的に解除したが、放射線量の高い帰還困難区域はこの対象から外れた。ただ帰還困難区域の住民から根強い帰還要望があったため、2017年に福島復興再生特別措置法(平成24年法律第25号)を改正し、区域内の一部に、住民が居住できる「特定復興再生拠点区域」を設けて国費で除染とインフラ整備を進め、2022年春から2023年春をめどに避難解除を目ざしている。