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日本大百科全書(ニッポニカ)

墨壺

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墨壺
すみつぼ

長い直線を正確かつ簡単に描くことができる道具。糸を墨汁を蓄えた池に通し、壺車で巻き取るつくりとなっている。糸を引っ張りながら真上に持ち上げ、パンとはじくと、多少の凸凹にかかわらず、表面にまっすぐな墨線が残る。墨付け仕事に欠かせない便利な道具である。

 墨壺は中国から渡来したと考えられており、日本に現存する最古のものは正倉院宝物の2点である。古代・中世には、壺車を保持する部分が二またに分かれた尻割れ型であったが、近世になると尻部を閉じ、波・雲・植物・獅子(しし)や鶴・亀など縁起物の彫刻を施した装飾的なものが増えた。

 墨壺は、墨汁を浸した真綿の入った壺(墨池)、壺糸(墨糸、墨縄ともいう)、壺車、糸を固定する軽子(かるこ)、壺から糸が出る部分の壺口などで構成されている。材料はクワがもっともよいといわれているが、今日ではケヤキが一般的である。大きさは大・中・小があり、大型は長さ約1尺(30センチメートル)で社寺専用の大工用。中型は長さ約8寸(24センチメートル)、小型は長さ約6寸(18センチメートル)で、ともに造作(ぞうさく)仕事用である。

 墨壺はおもに源氏型と一文字型に分けられる。源氏型は、現在一般的に使われている墨壺の型で、壺車が源氏車の形をしていることから名がついた。一文字型は、中央がやや上に反った細長い箱型で、墨池が源氏型に比べて小さい。

 墨壺のほかに朱壺がある。墨壺は、墨汁に膠(にかわ)を入れて、雨にぬれても消えないようになっている。朱壺は墨のかわりに水洗いで消えるベンガラを使用したもので、おもに木肌を削らない、数寄屋(すきや)・茶室や、建物内部の造作材や建具の仕事に使われるので、墨壺に比べて小ぶりになっている。

 墨付けのときには、竹を割って平らにし、一方の先端を斜めにそいで細かい割れ目を入れた墨さし(墨指・墨差し)と併用する。墨さしは、先端に墨壺の墨汁を含ませ線を引き、他端、頭のほうは丸く削ってたたきつぶし、木材に符号や印などを書く筆の役目をさせるものである。

[赤尾建蔵]2021年7月16日

©SHOGAKUKAN Inc.

メディア

墨壺の各部名称と墨付けの方法

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