広くは国や政府関係機関、地方公共団体といった公的部門の債務を意味し、市場での金融商品を意味する場合には、国や政府関係機関、地方公共団体が発行する債券(国債、政府関係機関債、地方債など)のことをさす。
公債発行の意義としてまずあげられるのは、税収の補完である。政府による財源調達の基本は税であるが、税収は景気状況などにより変動する。税収が減少し財源が不足する際、公債発行により補完する一方、税収が増加する際には、公債の償還財源を確保する。各年度で財政を均衡させた場合、景気低迷時には税収減による歳出抑制が景気をより悪化させる要因となる一方、好景気の際の税収増を歳出増にあてると、景気過熱によるインフレーション(インフレ)を招きかねない。
景気への対応ということでは、不況時に公債発行を用いて景気対策を実施することもあげられる。非自発的失業や生産設備の余剰がある場合、公債発行による減税や公共事業の追加といった財政政策の実施が可能である。経済構造や社会情勢、金融政策との関係などにより、公債発行を伴う財政政策による景気浮揚効果がどこまで得られるか議論は分かれるものの、少なくとも下支えの効果は認められる。
次に、負担の世代間調整である。公債の使途を公共事業に限定して考えれば、整備された社会資本の便益は将来にもわたる。そこで、公共事業の財源に公債を用いることで、負担を将来の受益者である後世代にも負担させることが可能となる。また、財政支出と財政収入の年度間調整も考えられる。とくに財政規模の小さい地方公共団体にとって重要な考え方で、多額の財源を必要とする事業について公債を用いることで財政負担が平準化される。さらには、大規模災害による被害の復旧など突発事項への対応も、公債発行の意義と考えられる。日本においては、1990年度(平成2)における湾岸戦争への対応のための臨時特別公債や、2011年度(平成23)の東日本大震災に対応するための復興債などをその例としてあげることができる。
公債発行の問題点として、もっとも極端な例としてあげられるのは、債務不履行(デフォルト)の発生による経済破綻(はたん)である。2002年1月に発生したアルゼンチンの債務不履行は、巨額の公債発行が経済的な破綻につながった典型的な例である。
1999年にブラジルが変動相場制へ移行し自国通貨レアルの価値を実質的に切り下げた影響を受け、米ドルと通貨価値を一定にするドル・ペッグ制を維持してきたアルゼンチンの通貨ペソが相対的に高くなり輸出競争力を喪失、国際収支が悪化した。その後、外貨準備の減少や国際通貨基金(IMF)との交渉の失敗などもあり、公務員給与や年金の支払いが滞るようになり、アルゼンチン政府は2001年12月23日に公的債務の一時支払い停止を宣言した。そして、2002年1月3日にイタリア・リラ建て国債の利払いが実行されず、債務不履行となった。自国通貨への内外の信用がきわめて低かったことから、当時のアルゼンチンの公的債務の多くは外国通貨建てであった。
債務不履行の影響は、国民生活に幅広く及んだ。国内預金の一部封鎖や外貨の引出し制限など、国の金融システムは大混乱に陥った。それに、激しいインフレや増税、行政サービスの低下が追い討ちをかける。外貨準備は払底し、海外からの投資は減少、実質所得の低下や失業率の上昇など、アルゼンチン経済は大打撃を受けた。
債務不履行までいかなくとも、マクロ経済への悪影響も考えられる。公債発行によるマクロ経済への悪影響として指摘されることに、まず金利の上昇やインフレを起こすことがあげられる。公債発行の拡大は、金融市場において貨幣需要の増加につながるので、資金の需給が逼迫(ひっぱく)し金利の上昇要因になる。そして、金利の上昇は、貨幣価値の低下を意味するので、インフレを引き起こす可能性が高い。極端な例としては、第一次世界大戦後のドイツや第二次世界大戦後の日本をあげることができる。
次に、クラウディング・アウトcrowding outの発生の可能性が指摘される。クラウディング・アウトとは、公債の発行が民間の資金需要を「押し出す」crowd outことである。政府と民間が資金を取り合った場合、同じ条件では信用度の面で政府が有利である。さらに、国際的信用の失墜によって当該国通貨の価値が下落することも考えられる。海外の投資家から、公債発行の拡大が将来のインフレにつながると評価されれば、当該国通貨を売る要因になる。それにより、輸入インフレが発生する可能性がある。
ただし、公債発行による問題が発生するかどうかは、その国の経済状況などにより異なる。国内で資金調達可能で海外から資金調達する必要が乏しい場合や、企業の投資資金需要が活発ではない場合、中央銀行による公債の大量の買入れなどがあると問題は発生しづらい。
公債発行による、後世代への負担転嫁のおそれもある。後世代への負担転嫁の問題は、負担や受益の定義、前提条件などによって結論が分かれる問題である。ただし、世代間の公正を阻害する可能性のあることは、踏まえておく必要があるだろう。また、財政の硬直化により政策選択の幅が狭まる。これは、財政運営上の問題と密接に関連しているが、実際の予算策定上などで明らかに生じていることである。
公債発行の歯止めとして、日本では建設公債の原則が規定されている。建設公債の原則とは、公共事業等を公債発行の対象として限定(対象規定)、もしくは公共事業等の総額を公債発行の上限として規定(上限規定)することである。日本のものは対象規定であり、上限規定の例としては2009年に改正されるまでのドイツ(ドイツ連邦共和国基本法、旧115条)をあげることができる。
建設公債の原則の理論的起源は、A・ワーグナーによる。ワーグナーは、支出を経常的支出と臨時的支出に区分し、臨時的支出にのみ公債の充当が許されるとした。日本における建設公債の原則とは異なるが、公債の発行対象を限定する点や、経常的経費を公債発行対象から外す点において共通する。制度として建設公債の原則の原型は、ワイマール憲法(1919年制定)にさかのぼる。そこでは、企業性を有する貸付けや出資を含む事業目的の経費に、公債発行の対象を限定するというものであった。
日本における建設公債の原則の始まりは、1947年(昭和22)制定の財政法においてである。財政法第4条で、まず公債の原則不発行主義をうたい、但書で公共事業費、出資金および貸付金の財源のみ、国会の議決を経た金額の範囲内で公債の発行を認めている。制定時における公債の原則不発行の趣旨は、戦費調達手段として公債を増発し戦争の拡大や継続に寄与してしまったこと、そして大量発行された公債が戦後のハイパー・インフレ(超インフレ)をもたらし国民生活破壊の原因となったことへの反省である。但書の趣旨は、景気を財政で調整するという公債政策の新しい考えの採用にあった。しかし、戦争財政への反省があるため、公債発行の規模と発行対象に歯止めが必要である。そこで当時のスウェーデンやノルウェーの予算制度を参考に、公共投資等を使途とする場合のみ例外的に容認するという建設公債の原則を導入した。
日本では、1990年代以降、バブル経済崩壊、デフレーション進行、リーマン・ショックなどに対する経済対策、東日本大震災や新型コロナウイルス感染症(COVID(コビッド)-19)への対応、高齢化による社会保障費の増大、人口減少と過疎化の進展などで、国、地方ともに一般会計の歳出は増え続ける一方、税収は伸び悩み、この差を埋めるため、公債発行が高水準で続いている。国では1994年度(平成6)から赤字国債(特例国債)、地方では2001年度(平成13)から赤字地方債である臨時財政対策債の発行が毎年続き、国と地方をあわせた借金(長期債務残高)は2021年度(令和3)末で約1212兆円と、国内総生産(GDP)の2倍強に達する見通しである。財政健全化のため、1999年の小渕恵三(おぶちけいぞう)政権以降、歴代内閣は国債に頼らずに歳出をまかなうプライマリーバランス(基礎的財政収支)の均衡を政策目標に掲げているが、達成年次の先送りを繰り返している。