国の一般会計のうち、歳入不足を補うために特例的に発行する国債。発行で調達した財源は社会保障費、人件費、事務費など毎年継続的に支出される経常・義務的経費にあてられる。インフラ整備(公共事業や、これに関連した出資・貸付金)の財源にあてる建設国債(建設公債)が後の世代に道路、橋、港湾、空港などの資産を残すのとは対照的に、赤字国債は後の世代に借金のみを残すため、両者は厳密に区別されている。第二次世界大戦時の野放図(のほうず)な国債発行が軍備拡張と戦後の激しいインフレーション(インフレ)を招いたとの反省から、戦後、政府が安易に国債を増発しないよう、財政法第4条第1項では国債発行を原則禁止し、第4条但書で建設国債の発行のみを認めている。つまり赤字国債は、財政法上、発行を認められておらず、発行には特例法制定を必要とする。このため赤字国債は特例国債ともよばれる。
第二次世界大戦後、日本では、石油ショックによる景気低迷で税収が大幅に落ち込んだ1975年(昭和50)に本格的に赤字国債(発行額2兆0905億円)を発行。以後、バブル経済で税収が増えた1991~1993年度(平成3年4月~6年3月)を除き、毎年発行を続けている。不況時や大災害時に発行額が膨らみ、リーマン・ショック後の2009年度(平成21)に36兆9440億円、東日本大震災後の2012年度に36兆円0360億円、新型コロナウイルス感染症(COVID(コビッド)-19)拡大時の2020年度(令和2)に89兆9579億円を発行した。政府は毎年、1年限りの特例法を制定することで赤字国債発行に歯止めをかけてきたが、2012年に複数年度にまたがって発行可能な特例法(当初2013~2015年度の3年間)を制定し、その後5年間にまたがる特例法(2016~2020年度)や、その特例法の5年間延長(2021~2025年度)が決まり、財政規律が緩むとの批判がでている。赤字国債の発行は財政悪化の主因であり、政府は、国債抜きで歳出をまかなうプライマリーバランス(基礎的財政収支)均衡による財政健全化を掲げているが、その目標年次は繰り返し先送りされている。