認知療法とほぼ同義語で使われ、問題解決を妨げている認知、つまり心の情報処理過程に焦点をあてることで、気分や行動をコントロールする力を育て、問題に適切に対処できるように支援する問題解決志向型の精神療法である。認知行動療法には、1回の面接が45分から50分間の定型的認知行動療法(高強度認知行動療法ともよぶ)のほかに、集団認知行動療法やインターネットを活用して15分から30分の短時間で行う簡易型(低強度)認知行動療法がある。
定型的認知行動療法は、日本では2010年(平成22)4月にうつ病の治療法として診療報酬の対象になり、その後、不安症、強迫症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、神経性過食症の治療法としても診療報酬の対象となっている。このほか、慢性痛や耳鳴り、めまいなどをはじめとする身体疾患に伴う精神的苦痛を緩和する目的でも行われるようになっている。
また、認知行動療法の考え方に基づくアプローチは、日常生活でのストレスへの対処や心の健康保持増進のためにも活用されている。こうしたアプローチは、医学的な治療法である認知行動療法と区別して、認知行動変容アプローチとよばれることもある。
認知行動療法では、気持ちが動揺したときに頭に浮かんでいる考えに焦点をあてる。こうした考えは、ほとんど意識しないまま自動的に頭に浮かび消えていくことから、自動思考とよばれる。認知行動療法では、抑うつ感情(落ち込みや悲しみなど)の背景には喪失、不安感情には危険、怒り感情には不当な扱いを受けているという判断が存在しており、そうした思考が極端になってくると適切な行動がとれなくなって、心理的な苦痛を感じるようになると想定する。そのため、認知行動療法の面接では、情報を集めて現実的な思考ができるように手助けして、適切に問題に対処できる力を伸ばしていく。
治療としての認知行動療法は、まず「概念化」ないしは「定式化」とよばれる作業から始める。それは、患者の性格や気質、生い立ち、子どものころから続いている考え方の特徴(スキーマ)、発症のきっかけや症状の継続に影響している要因など、患者の心理的課題や強みやレジリエンスを明らかにする作業で、こうした理解を患者と共有したうえで治療面接が進められる。
治療の過程で使われる代表的な技法としては認知再構成法がある。これは、気持ちが動揺したときの自動思考を具体的に特定し、その思考に関連した情報を収集していく。それによって、患者は問題解決の助けになるような現実的な思考が可能になり、ストレスが軽減し、症状が改善してくる。
このほかにも、日常の生活のなかで楽しいことや、やりがいのあることを増やしていく「行動活性化」、具体的な問題を解決するスキルを伸ばしていく「問題解決技法」、自分の気持ちや考えを適切な形で相手に伝える「アサーションassertion」、不安を感じる場面に足を踏み入れて危険の程度や自分の対処能力、周囲からの支援を確認しながら考えを修正し不安を軽減していく「暴露反応妨害法」など、さまざまな技法があり、こうした技法を駆使して治療を進めていく。