大規模地震の被害の大きさ、悲惨さ、教訓などを後世に伝える被災建物などの構造物。2011年(平成23)3月の東日本大震災では、津波に流されなかった「軌跡の一本松」(岩手県陸前高田市)のような自然物、児童・教職員84人が犠牲になった旧大川小学校校舎(宮城県石巻市)などの学校をはじめ、役場、駅舎、宿泊施設、工場、歩道橋、防潮堤などの建造物や、津波で流された漁船、自動車、鉄道車両などがある。阪神・淡路大震災で残った防火壁「神戸の壁」(移設保存)、新潟県中越地震で脱線した上越新幹線「とき325号」(移設保存)もこれに該当し、歴史上の大津波の到達点などを示す津波伝承碑を含める考え方もある。これらを後世に残すことで、大災害の記憶の風化防止、教訓の伝承、慰霊・追悼・鎮魂、防災・減災の啓発、街づくりの中核施設とする、などの効果が期待される。保存方法には、完全な形での現地保存のほか、移設保存、祈念公園などでの部分保存、また、解体して写真やデジタル映像などで残す手法もある。保存をめぐっては、「悲惨な体験を思い出す」と解体・撤去を求める遺族も少なくなく、被災各地で賛否両論がある。両論に配慮し、津波にのまれた南三陸町防災対策庁舎(宮城県南三陸町)の場合は2031年まで県有化し、保存については後世の判断に任せることとした。
復興庁は1市町村1か所に限って、遺構の調査・初期保存費を復興交付金の対象としている。ただし維持管理費は対象外で、震災遺構の保存は自治体予算、入場料、募金、寄付などでまかなわれているのが実態である。震災遺構には、案内員や語り部のいる伝承施設、慰霊碑、モニュメントなどが併設されることが多い。国土交通省などでつくる震災伝承ネットワーク協議会はこれらを震災伝承施設と位置づけ、約300か所を登録してネットワーク化(3.11伝承ロード)し、複数施設をたどることで被災の実態や教訓を学ぶ場とする取り組みを進めている。