食生活や喫煙、飲酒、運動不足など生活習慣との関係が大きい病気のことで、従来は「成人病」とよばれていた。「成人病は本当は習慣病」と1970年代末から指摘していた一人が聖路加(せいろか)国際病院理事長の日野原重明(ひのはらしげあき)(1911―2017)であった。こうした意見を踏まえた公衆衛生審議会(現、厚生科学審議会)の提言を受け、厚生省(現、厚生労働省)は1997年(平成9)、「成人病」を「生活習慣病」と改称した。生活習慣病には、日本人の三大死因であるがん(悪性新生物)、心臓病(心疾患)、脳卒中(脳血管疾患)をはじめ、糖尿病、高血圧、高脂血症(脂質異常症)、腎臓(じんぞう)病、慢性閉塞(へいそく)性肺疾患、痛風、肥満、歯周病、さらには骨粗鬆(そしょう)症、認知症なども含まれる。成人病は年をとっていくと自然におこる病気、というイメージがあるが、生活習慣病というと不適切な生活習慣が原因であり、個々人の責任、という感じが強くなる。しかし、なかには原因が詳しくわかっておらず、かならずしも個人の責任とはいえない病気も含まれている。
明治以降、第二次世界大戦までは、肺炎、結核、胃腸炎などの感染性疾患が死亡原因の上位を占めていたが、公衆衛生の向上に伴い、感染性疾患は急激に減少した。たとえば、1935年(昭和10)の総死亡数に占める感染性疾患と生活習慣病は43%対25%だったが、1955年には20%対47%と完全に逆転している。1958年から、脳卒中、がん、心臓病が死因の1~3位を独占するようになり、翌1959年から政府は「成人病予防週間」を制定し、生活習慣病対策を重点目標にした。
生活習慣病は毎日の食事や、酒、たばこなどの嗜好(しこう)品とのかかわり方、生活環境など日常生活の積み重ねで始まり、加齢によって進行する。発病しないようにする第一次予防は生活習慣の改善で、要件としては、たとえば禁煙、節酒、バランスのよい食事、動物性脂肪の摂取制限、適度な運動などがあげられる。続く第二次予防は、検診で早期発見し、発病しても適切な治療で重症化を予防することである。これらの考えは、まずがん対策に取り入れられ、1982年施行の老人保健法(現、高齢者医療確保法)下で、自治体による胃、肺、大腸、子宮、乳がんの検診が広がった。ただし、個々のがん検診の受診率は全国的にはかならずしも高くはない。
がんに続く生活習慣病の心臓病、脳卒中については、厚生労働省は2008年度(平成20)から、市町村や健康保健組合に、生活習慣病予防のための特定健診を義務づけた。肥満症に高血圧、糖尿病、高脂血症の三つが重なる場合は「死の四重奏The Deadly Quartet」(1989年にアメリカの医師によって提唱された概念)とよばれていた。メタボリック症候群(内臓脂肪症候群)は「死の四重奏」までは行かない、肥満症(内臓脂肪の蓄積)に加え、高血圧、高血糖、脂質異常のうち2項目以上が該当する状態のことで、心臓病や脳卒中につながるとして注目されてきた。特定健診では、もっとも重要な肥満症の基準をへそ回りの腹囲が、男性は85センチメートル以上、女性は90センチメートル以上としている。脂肪が内臓器官の周囲に多くつく方が動脈硬化の可能性が高まるとの認識に基づき、コンピュータ断層撮影装置で撮影した内臓脂肪の断面積が100平方センチメートルを超す腹囲が85センチメートル、90センチメートルという意味である。基準は日本肥満学会が中心になり、関係学会が同意して決まったが、その後、さまざまな批判意見も出ている。たとえば、世界各国で似た基準はあるが、男性が女性より細い国はなく、女性の基準値が緩めではないかとの指摘がある。また、滋賀医科大学教授の上島弘嗣(うえしまひろつぐ)(1943― )らが約7200人を10年間追跡した調査では、やせていて高血圧、高血糖の人は、肥満の人より心筋梗塞(こうそく)や脳卒中で亡くなるリスクが高かった。厚生労働省は特定健診で死亡や医療費が減ることを期待し、定期的に健診や保健指導の内容や評価方法の見直しを行っている。