過剰(かじょう)にリン酸化されたタウ(タンパク質)が脳に蓄積することで、運動症状と認知症などを呈する大脳疾患。PSPと略称される。パーキンソン病とよく似た症状を示すが、パーキンソン病の20分の1程度の有病率とされ、多くは40歳以降に発症し、緩徐に進行する。垂直性の注視麻痺(まひ)(横目はできても上目や下目が困難)と、転倒を伴う著明な姿勢反射障害(立っている患者の身体を後ろに軽く押すだけで簡単に転びそうになる)を主症状とする。また他者からは、上を向いてばかりいると見られかねないほど頸部(けいぶ)が後屈する。通常は運動症状から始まるが、認知症で始まる例もある。
本症でみられる認知症に対し、「皮質下性認知症」という概念が提唱されている。つまりアルツハイマー病などの多くの認知症では、その責任病巣(主たる病巣)が大脳皮質にあるが、それらとは異なり、皮質下の基底核に責任病巣があるという考え方である。その特徴は(1)健忘、(2)思考が遅いこと、(3)人格・気分の変化(無気力、うつや易刺激性)、(4)計算や抽象化能力の低下、にある。大脳の後方に主病変があるアルツハイマー病では、印象深いはずのできごとの記憶がごっそり抜けるエピソード記憶障害がみられるが、主病変が大脳前方にある本症ではエピソード記憶は保たれ、新たな記憶をインプットする記銘力の障害も軽度である。
診断の助けとして、大脳MRI検査や脳血流SPECT(スペクト)検査が行われる。治療面では、現時点では根本的な治療法は確立されていない。対症療法として、運動障害にはレボドパ(パーキンソン病治療薬)が、また認知機能障害にコリンエステラーゼ阻害薬も用いられるが、効果は十分とはいえない。
なお、本症は国が定める難病(指定難病)に指定されている。