家庭、福祉施設、職場(事業所)内での障害者への虐待の禁止、防止と早期発見、養護者らへの支援を定めた法律。正式名称は「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」(平成24年法律第67号)。2011年(平成23)成立、2012年施行。虐待の事実を訴えられない障害者に対する虐待は社会全体で共通の解決すべき問題であるとの見地から、虐待と疑われる行為を職場などで発見した人に地方自治体への通報を義務づけた。通報を受けた市区町村には家庭内への立入調査権や、被害者を家族や福祉施設から切り離す一時的保護を認めた。保護対象は、障害者基本法に定める身体障害、知的障害、精神障害を負う人々であり、虐待者としては、家族など身の回りの世話をする養護者だけでなく、福祉施設の職員、職場の上司や同僚などを想定。虐待内容は「身体的虐待」「心理的虐待」「性的虐待」のほか、介護・世話の放棄や必要な医療を受けさせない「ネグレクト」、年金や賃金を搾取する「経済的虐待」の5類型とする。虐待発見者に通報義務を課すと同時に、通報者を解雇するなど不利な扱いをすることも禁止した。国と地方自治体は障害者虐待防止や養護者支援の義務を負い、必要に応じて警察へ援助を要請することや、成年後見人をつけるよう裁判所に申し立てることもできる。福祉施設での虐待は、地方自治体が調査のうえ実態を公表し、改善、勧告、業務停止や解散を命令する。地方自治体には通報や届出を受け付ける365日24時間対応の窓口設置が義務づけられた。社会的弱者への虐待防止に関する法律としては、児童虐待防止法(2000年施行)、高齢者虐待防止法(2006年施行)に続く法整備である。
障害者虐待が社会問題化したため、2004年ごろから法制定の気運が高まったが、郵政民営化を争点とした衆議院解散のあおりなどで、2011年にようやく制定にこぎつけた。しかし同法施行後も障害者虐待は増え続け、厚生労働省の調査では、2021年度(令和3)の障害者虐待に関する相談・通報は1万0545件、虐待の認定件数は2693件といずれも過去最多を更新した。国連障害者権利委員会は2022年、強制入院が横行する精神科医療などの日本の障害者政策に改善を勧告した。なお、同法では医療機関、教育機関、官公署に通報義務を課していないが、2024年4月の改正精神保健福祉法(正称「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」昭和25年法律第123号)施行で、医療機関には速やかに虐待の概要を都道府県に通知することが義務づけられた。