アジア・太平洋地域における開発途上国の経済開発を促進し、貧困の減少を目的に設立された地域国際開発機関。略称ADB。1963年のECAFE(エカフェ)(アジア極東経済委員会)閣僚会議で設立構想が具体化し、1965年12月フィリピンのマニラで設立協定が採択されて、1966年12月に業務を開始した。本部所在地はマニラで、2023年時点の加盟国は68か国・地域(域内49、域外19)である。日本は創設当初からの加盟国で、アメリカとともにADBの総資本の15.6%ずつを保有する第1位の出資国であり、アメリカと同様に議決権の12.8%を保有している。第3位の出資国は中国で、出資比率6.4%、議決権比率5.4%を占めている。歴代の総裁は日本人が務めており、大半は財務省出身者である。
アジア・太平洋地域は世界でも経済成長率が高い地域であるが、1日1.9ドル以下で生活する貧困人口を2.6億人も抱えている。このため、加盟国の経済社会的発展を促進するために開発資金の融資、技術支援、無償資金供与、出資などを通じた支援や、経済計画の政策策定に関する助言や政策対話、官民の共同金融支援で資金調達を拡充するなど、多様な支援を行っている。
資金は、加盟国からの拠出資本金と、借入金とからなる通常資金と、特別拠出金による特別基金とに大別される。融資は開発を目的とする公共投資の比重が高く、部門的には情報通信技術、エネルギー、運輸などが多い。2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID(コビッド)-19)危機以降は、長期的開発支援に取り組みつつも、感染症の影響に対応するため保健・医療セクターへの融資を行ったり、将来の危機への対応および各国の保健・医療サービスに関するユニバーサル・ヘルス・カバレッジの実現を推進する制度を導入した。
ADBは長期的戦略指針として、包括的成長、環境に配慮した持続可能な成長、地域統合をあげているが、アジア・太平洋地域は気候変動、自然資源の損失、汚染・廃棄物という三重の課題に直面しているとの認識にたち、現在は「アジア・太平洋地域の気候バンク」として、気候変動対応の支援に力を入れている。まずは2015年に、2020年までに年間最大60億ドルの気候関連融資を増やすことに初めてコミットし、1年前倒しで実現した。2019~2021年の累計融資額は143億ドルに達し、さらに2024年までに合計350億ドルの供与にコミットしている。また、「ストラテジー2030」のもとで、2030年までの目標累計気候関連融資額を1000億ドルとしている。さらに、2023年7月までに新規ソブリン(公共セクター)業務についてはすべてを、ノンソブリン(民間セクター)業務については85%以上(2025年には100%)を、世界の温室効果ガス削減で合意した2015年パリ協定の目標に沿った内容にすると発表し、新規石炭火力発電への融資は差し控えると公約している。また、ADBのあらゆる業務でジェンダー平等に徹底して努めている。