国家、政府機関、非政府組織(NGO)などを会員として、世界的視野で野生生物・自然環境・天然資源の保全のための調査研究、啓発活動、政策提言などを行う国際的な団体の通称。正式名称を「自然及び天然資源の保全に関する国際同盟」(略称IUCN)といい、本部はスイスのレマン湖畔のグランに置かれている。
IUCNは、第二次世界大戦後の1948年にユネスコ(国連教育科学文化機関)の後押しによりフランスのフォンテーヌブローにおいてInternational Union for the Protection of Nature(IUPN)という名称で設立され、1956年、人間の利用対象である「天然資源」ということばを含む現在の名称に変更された。設立の目的は、自然保護分野において政府とNGOが共通のビジョンのもとに団結し、国際協力を促進して保全に役だつ科学的知見や手段を提供することとされ、18の政府、114のNGO・国際機関をメンバーとして発足した。日本は、1978年(昭和53)に環境庁(現、環境省)が政府機関として、1995年(平成7)には国家会員として加盟した。
2022年(令和4)12月時点で、IUCNには211の国家および政府機関会員、1241のNGO・先住民族団体会員が加盟している。約1万4000人のボランティア専門家が所属する七つの専門家委員会(種の保存委員会、世界保護地域委員会、生態系管理委員会、教育コミュニケーション委員会、環境経済社会政策委員会、世界環境法委員会、そして2021年に新設された気候危機委員会)を有し、50か国以上に配置された900名を超える事務局職員に支えられる世界最大の環境ネットワーク組織である。専門家委員会の活動として、種の保存委員会が中心となって毎年作成・更新・公表するレッド・リストがよく知られている。近年では4年に一度、総会(World Conservation Congress)が開催され、理事会構成メンバーの選任、次期4年間のプログラムの承認、決議の採択などが行われる。
IUCNは、世界遺産条約(「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」)、ワシントン条約(「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」)、ラムサール条約(「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」)、生物多様性条約(「生物の多様性に関する条約」)などの重要な環境条約の成立にかかわり、科学的情報の提供などを通じて、これらの条約の活動をサポートしている。
日本には、IUCNに加盟する日本国内の団体間の連絡協議を目的として、1980年に設立されたIUCN日本委員会がある(2001年にIUCN理事会において正式な国内委員会として承認)。国家会員1(外務省)、政府機関会員1(環境省)、18の非政府機関会員で構成され、事務局は日本自然保護協会内にある。また、IUCN事務局の日本事務所(IUCN日本リエゾンオフィス)が大正大学地域構想研究所に置かれている。