正極活物質に多孔性二酸化鉛PbO2、負極活物質にスポンジ状鉛Pb、電解液には33~37%程度の硫酸H2SO4水溶液を用いる代表的な蓄電池。1859年にフランスのプランテRaimond Louis Gaston Plant(1834―1889)により発明され、多くの改良が加えられてきた長い歴史をもつ。
鉛蓄電池が放電すると、正極では
PbO2+SO42-+4H3O++2e-
―→PbSO4+6H2O
また負極では
Pb+SO42-―→PbSO4+2e-
の反応が進み、鉛蓄電池全体では
PbO2+Pb+2SO42-+4H3O+
―→2PbSO4+6H2O
で示される。充電反応はこれらの逆である。起電力は硫酸濃度が濃いほど大きくなるが、通常の濃度では約2.1ボルトで、水溶液を電解液とする蓄電池のなかではもっとも高い。また公称電圧は2.0ボルトで、出力密度は300W/kg前後、エネルギー密度は30~40Wh/kgである。両極ともに電解液の硫酸と反応するので、放電電気量に比例して硫酸濃度(比重)が低下し、充電時に上昇する。したがって硫酸濃度(比重)から充放電状態を知ることができる。
ペースト式極板を用いる方式では、集電体を兼ねる極板の格子グリッド材料に、通常2~6%のアンチモンを含む鉛合金が用いられている。また鉛カルシウム合金シートに切れ目を入れて引き延ばし、格子状とするエキスパンド格子が実用化されている。これらの格子グリッドにペースト状二酸化鉛粉末あるいはペースト状鉛粉末を充填(じゅうてん)してそれぞれ正極または負極とする。そして表面にガラスマットを当てて活物質の脱落を防ぎ、硫酸電解液中で隔離板を介して正極と負極を対置する。このような構造の単電池を数個、並列あるいは直列に接続して、合成樹脂製の電槽に収納する。正極にクラッド式(チューブ式)極板を用いる場合には、ガラス繊維製の多孔性チューブに鉛合金芯金を挿入し、その空隙(くうげき)に活物質の二酸化鉛ペーストを充填して枠体に配列する。構造的に二酸化鉛が脱落しにくく耐久性に優れているため、充放電サイクル寿命を長くすることができる。負極にはつねにペースト式が用いられるが、充放電を繰り返すとスポンジ状鉛が収縮・緻密(ちみつ)化して容量が低下するので、それを防止するためにリグニン系物質や硫酸バリウムなどの防縮剤が少量添加されている。
鉛蓄電池は、漏液による周辺機器の腐食を避けるために密封構造とし、ベント形では充電時の酸霧の逸散や水の消耗を抑える目的で蓄電池の上部に排気栓が設けられている。またシール形(密閉形)では充電時に正極から発生する酸素を負極で反応吸収させ、負極を化学的に放電状態として水素の発生を抑え、補水を必要としない機能をもたせる。さらに定められた内圧を超えると作動する安全弁(制御弁)を備えていて、メンテナンスフリーとなっている。また触媒栓式シール形では、触媒と防爆フィルターにより充電時に発生する水素と酸素を反応させて水に戻すとともに、酸霧の放散や外部火種による内部可燃ガスの引火爆発を防ぐようくふうされている。自動車始動用鉛蓄電池では、70℃を越えるような厳しい環境下での信頼性が技術的に未熟であるため、現状ではシール形は普及していないが、将来的にはシール形になるものと考えられる。
2002年(平成14)における日本の鉛蓄電池の生産シェアは蓄電池総生産額の28%で、やや増加の傾向にある。高出力で移動可能であり、安定した品質、高い信頼性や経済性を有する鉛蓄電池が自動車のエンジン始動用やフォークリフトなどの動力用電源に用いられているほか、据置用が非常用電源、予備電源、電力貯蔵用、太陽電池発電システム用などに、また小容量の小形シール鉛蓄電池が、二輪自動車用や無停電電源装置など多方面で使用されており、そのうち自動車始動用が62%を占める。
[浅野 満]