消化管ホルモンのインクレチンを介してインスリン分泌を促進する糖尿病治療薬。インクレチンは膵臓(すいぞう)のランゲルハンス島β(ベータ)細胞を刺激し、血糖値依存的(血糖値の上昇に伴って)にインスリン分泌を促進することから、食後高血糖改善を目的として用いられる。
インクレチンには、上部消化管の腸内分泌細胞であるK細胞に含まれるグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)と、下部消化管の腸内分泌細胞であるL細胞に含まれるグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)があり、食後の血糖値上昇によるβ細胞からのインスリン分泌を促進する。なお、インクレチンは消化管、腎臓(じんぞう)、内皮細胞や前立腺などの上皮細胞、リンパ球などの細胞膜に発現し、可溶性タンパク質として血中に存在しているジペプチジルペプチダーゼ4(DPP-4)によって速やかに不活性化されることから、インクレチンの血中半減期は数分とごく短い。
2023年(令和5)時点で臨床で使用されているインクレチン関連薬には、GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬がある。GLP-1受容体作動薬にはリラグルチドやエキセナチド、セマグルチドなどがあり、作用持続時間により短時間作用型の注射(皮下注射)製剤と週1回投与で長時間作用型に分類される注射(皮下注射)製剤がある。さらに長時間作用型のGLP-1受容体作動薬セマグルチドには、経口投与を可能にした短時間作用型の経口製剤(内服薬)もある。
GIP/GLP-1受容体作動薬には週1回投与の注射(皮下注射)製剤であるチルゼパチドがあり、DPP-4阻害薬には1日1~2回内服の経口製剤(アナグリプチン、アログリプチンなど)と、週1回内服の持続性製剤(オマリグリプチン、トレラグリプチン)がある。
いずれのインクレチン関連薬も血糖値依存的にインスリン分泌を促進することで血糖降下作用を発揮することから、単独使用においては、既存の糖尿病治療薬(スルホニル尿素薬など)とは異なり低血糖をもたらす副作用が起こりにくく、さらに体重増加を起こさない特徴がある。一方、インスリン分泌を促進する他の薬剤(おもにスルホニル尿素薬)、またはインスリン製剤と併用する場合には低血糖発現リスクが高まる可能性があるので、必要に応じてインクレチン関連薬以外の薬剤の用量調節が必要となる。