市区町村などが路線の計画や運営の主体となり、従来からバスが運行されていなかった交通空白地域や、採算性の問題で既存の路線バスが運行されなくなった地域を中心に導入されるバス。自治体が主体となって運行されるバスという意味で自治体バスという呼び方が用いられることもあるが、計画や運営の主体は市区町村にとどまらず、特定非営利活動法人(NPO)や地域住民が深くかかわる形で運行が継続されているケースも存在する。
コミュニティバスには道路運送法などの制度上の定義はない。厳密な定義がないことから、日本最初のコミュニティバスを特定するのは容易ではないが、1986年(昭和61)に東京都日野市で導入されたミニバスは、市内の駅や住宅地を巡回する路線を自治体(日野市)が提供したという意味でコミュニティバスの定義と合致している。そのため、少なくとも1986年にはコミュニティバスが運行されていたといえる。
「コミュニティバス」という名称が全国に広く知られるようになったきっかけは、1995年(平成7)に東京都武蔵野市で運行を開始した「ムーバス」である。武蔵野市では、バスの利用需要はあるものの道路幅員が狭く従来型のバスでは走行できず、バス路線がない地域が多かった。この状況を改善するために、交通評論家の岡並木(1926―2002)の指導のもとで武蔵野市がムーバスを新設した。開業時のムーバスは鉄道駅近くを循環する路線設定で、日中のみ15分おきに運行し、運賃は全線均一100円という方式だった。運行にかかる費用が運賃収入を超え赤字になる場合の欠損は武蔵野市が補助することとして、実際の運行は民間事業者が行った。
地域のモビリティ(移動のしやすさ)を向上させるために、民間事業者だけでは適切な交通サービスが供給されない場合に行政が支援する方式として、コミュニティバスを導入する自治体は増加の一途をたどっており、2021年度(令和3)には1361自治体で3717路線が運行されている。運行本数・頻度や運賃などは、各地域の実態に合わせた設定とすることが望ましいが、ムーバスに触発されてコミュニティバスを導入した自治体では、「15分おき」「循環路線」「運賃100円」という設定が多かった。これらの特徴は、コミュニティバスがかならず守らなければならないものではなく、運行本数や路線設定、運賃についても、さまざまな形式のものが存在する。