特定地域で集中的・時限的に規制緩和や税制優遇を行い、経済の活性化に取り組む仕組み。正式名称は国家戦略特別区域制度。第二次安倍晋三(あべしんぞう)政権が2013年(平成25)、成長戦略の一環として国家戦略特別区域法(平成25年法律第107号)を制定し創設を決めた。医療、農業、雇用、教育、都市開発などの分野で、省庁や業界団体の抵抗が強いいわゆる「岩盤規制」を緩和し、ビジネス環境を整え、内外から人、企業、資金、情報を集め、国際競争に負けない拠点形成を目的とする。内閣総理大臣が区域方針を定め、自治体や民間企業などが参加する区域会議で計画をつくり、政令で区域を指定する。さらに2020年(令和2)に改正国家戦略特別区域法(スーパーシティ法)が成立し、革新的技術・サービスで規制を一括緩和して、拠点そのものを未来型につくり変えるスーパーシティ特区とデジタル田園健康特区の設置も可能になった。
2014~2022年に4次にわたり、東京圏(東京都・神奈川県・成田市・千葉市)、関西圏(大阪府・兵庫県・京都府)、愛知県、広島県および愛媛県今治(いまばり)市、沖縄県、秋田県仙北(せんぼく)市、仙台市、新潟市、茨城県つくば市、長野県茅野(ちの)市、石川県加賀市、福岡市および北九州市、兵庫県養父(やぶ)市、岡山県吉備中央(きびちゅうおう)町を指定した。このうち2022年に指定されたスーパーシティ特区は大阪市、茨城県つくば市であり、デジタル田園健康特区は長野県茅野市、石川県加賀市、岡山県吉備中央町である。おもな取組みは、38年ぶりの医学部の新設、家事代行サービスでの外国人の活用、公立学校の民間開放、外国人観光客の住宅宿泊「民泊(みんぱく)」を認める旅館業法の規制緩和、企業の農地保有の解禁などがある。なお、企業の農地保有については、2023年9月から国家戦略特区から構造改革特区へ移行し、従来養父市に限定されていた一般法人の農地取得が、自治体が構造改革特区の申請をして認定されれば、全国どこでも可能となった。
日本の特区制度には、国家戦略特区制度のほか、2002年に小泉純一郎政権が創設した構造改革特区制度、2011年に民主党の菅直人(かんなおと)政権が創設した総合特区制度、東日本大震災の被災地で雇用、住宅、街づくりなどに特例措置を設ける復興特区制度などがある。以上の特区制度は、地方自治体の申請に基づいて地域それぞれの得意な産業を規制緩和で発展させるという側面が強いが、国家戦略特区は、国主導で特定地域に限定して規制改革を進め、国際競争に負けない拠点形成に取り組むという特徴をもつ。
なお、特区制度のほかに現行規制の緩和・撤廃にかかわる制度としては、「生産性向上特別措置法」(平成30年法律第25号)に基づいて創設された「規制のサンドボックス制度(新技術等実証制度)」(2021年に改正された産業競争力強化法に移管・恒久化)がある。これは事業者からの申請に基づき、期間・参加者などを限定したうえで、主務大臣が実証計画の認可を行い、現行規制を一時的に停止してドローンや自動運転など革新的技術・サービスの実証と事業化を可能にする制度である。