硬骨魚綱棘鰭(きょっき)上目スズキ目アジ科Carangidae(英名jacks、scads、trevallies、horse mackerel)の総称。amberjacks(ブリ類)、moonfishes(コバンアジ類)、pilotfishes(ブリモドキ類)、pompanos(コバンアジ類、イトヒキアジ属など)、queenfishes(イケカツオ類)などが含まれるが、一般には稜鱗(りょうりん)(鋭い突起を備えた肥大した鱗(うろこ)。「ぜんご」「ぜいご」ともいう)をもつアジ亜科のものをさす。狭義にはそのうちのマアジをさすことが多い。
スズキ目のなかで、アジ科は通常、臀(しり)びれの前方に2本の遊離棘(まれに1本)をもつことで特徴づけられる一群で、体は側扁(そくへん)し、体高は著しく高いものから紡錘形まで変化に富む。鱗は小さい円鱗で、多くの種では側線上に稜鱗をもつ。背びれは2基あり、第1背びれは普通は4~8棘からなるが、一部の種では棘が非常に短く、鰭膜がない。尾びれは大きく二叉(にさ)する。
またアジ科は稜鱗をもたない群と、これをもつ群に大別できる。前者にはコバンアジ亜科、イケカツオ亜科およびブリモドキ亜科が、後者にはアジ亜科が含まれる。
コバンアジ亜科は体がよく側扁し、上唇の前部が頭部と皮膚でつながらず、背びれと臀びれの前部軟条が伸長するなどの特徴をもち、コバンアジ属など2属21種(日本には1属2種)がいる。他方、イケカツオ亜科は体が細長く、上唇前部は頭部と皮膚でつながり、イケカツオ属など3属10種(日本には1属3種)がいる。ブリモドキ亜科は体が紡錘形で、背びれの軟条部の起部が臀びれの起部よりも著しく前から始まることで特徴づけられる一群で、ツムブリ属、ブリモドキ属、アイブリ属、ブリ属など5属13種(日本には4属7種)がいる。
稜鱗をもつことで特徴づけられるアジ亜科には、体高が低くて側扁するマアジ属、オニアジ属、ムロアジ属、メアジ属などから、体高が高くてよく側扁するイトヒキアジ属、ウマヅラハギ属、ギンガメアジ属、クボアジ属、オキアジ属、カイワリ属、インドカイワリ属、コガネアジ属、ナンヨウカイワリ属、ホシカイワリ属、タイワンヨロイアジ属などあわせて約31属約96種(日本からは22属45種)が知られている。アジ亜科は体形、背びれや臀びれの前部軟条の長短、背びれと臀びれの後方に小離鰭があるかないか、鱗の分布状態、側線のどの部分に稜鱗があるかなどによって分類されている。
従来のヨロイアジ属Carangoidesは魚類研究者の木村清志(せいし)(1953― )らのDNAと形態の研究(2022)によって多くの系統群に分かれた。彼らは各群に対してインドカイワリ属Craterognathus、コガネアジ属Flavocaranx、タイワンヨロイアジ属Platycaranxなどの新属に加えて、ウマヅラアジ属Scyris、ナンヨウカイワリ属Ferdauia、ホシカイワリ属Turrumなどの古い属名を復活させた。これらの和名は同年に、同氏らによって提唱された。その結果、ヨロイアジ属に含まれる日本産種はなくなった。
クロアジモドキParastromateus nigerに関して、成魚には腹びれがないこと、背びれ棘がないことなどからクロアジモドキ科(Formionidae)に分類されたことがあるが、これらの特徴は幼魚に存在していることや、成魚にも痕跡(こんせき)が確認されていることから、アジ科のアジ亜科に入れられた。
2016年のカナダの魚類研究者ネルソンJoseph S. Nelson(1937―2011)らの分子による系統仮説によると、アジ科はコバンザメ科、シイラ科、スギ科などとともに新しく創設されたアジ目に入れられている。なお同説では、アジ目はタウナギ目、カジキ目、キノボリウオ目、カレイ目といっしょに棘鰭上目のアジ形類(Carangimorpharia)を構成している。
アジ類は全世界の温帯から熱帯海域に広く分布する。ほとんどの種は岩礁域やサンゴ礁域の沿岸から沖合い、そして表層から中・底層の広範囲に生息し、群れをつくる種が多い。またブリのように季節的に南北に大きく回遊する種もいる。アジ類は浮遊性の小甲殻類を好んで食べ、とくに幼魚期はその傾向が強いが、成魚ではそのほかに魚類、イカ類、多毛類などを捕食する。稚魚期に内湾や河口域で生育する種が多いが、ブリは流れ藻の下で、マアジ、マルアジ、カイワリなどはクラゲ類の下で生育する。これらの稚魚は流れ藻やクラゲの傘の下に隠れて魚食性の魚や水鳥からの難を避けていると考えられている。カイワリ、コガネシマアジGnathanodon speciosusなどの幼魚はハタ類、サメ類などの大形魚について泳ぐことが観察されている。
日本ではアジ類のほとんどの種はトロール網、巻網、巾着(きんちゃく)網、釣りなどで漁獲され、刺身、煮つけ、干物、てんぷらなどに広く利用される。熱帯域ではカスミアジCaranx melampygus、ロウニンアジC. ignobilisのようにシガテラ毒をもつことが知られている。イトヒキアジの幼魚は背びれと臀びれの前部軟条を著しく伸長させ、優美に泳ぐことから水族館で観賞魚として飼育される。ブリ属、ギンガメアジ属など大形になる種はスポーツフィッシングの対象になる。
アジ科のなかで産業的に重要なのはアジ類のマアジと、ムロアジ類のムロアジ、モロDecapterus macrosoma、マルアジなど、およびブリ類のブリ、ヒラマサ、カンパチである。なかでもマアジとブリはイワシ類、サバ類、サンマなどとともに日本近海における重要な沿岸性魚類である。水産庁の海面漁業主要魚種別生産量によると、アジ類は2006~2016年(平成18~28)の11年間では約19万~15万トンの間で、そしてブリ類では約7万~13万トンで推移している。また海面養殖業主要魚種別生産量ではブリ類は魚類のなかでは突出して多く、13.5万~16.0万トンである。
遊漁船によるものと、防波堤などでの釣りに分けられる。船釣りは地域にもよるがほぼ周年、防波堤は夏から初秋にかけてが釣り期とされている。
遊漁船の釣りは、手釣りと竿(さお)釣りがある。群泳する魚の習性から、イワシのミンチやアミなどを寄せ餌(え)(コマセとよぶ)にして魚を集めて釣る。手釣りは、ビシ道具とよばれる寄せ餌を詰める金網か樹脂製の籠(かご)をつけ、鉤(はり)につける餌は蛍光玉の擬似鉤またはイカの身を小さく切って使う。竿釣りは、サビキ釣りが各地で流行している。寄せ餌、ビシ道具の下に、擬餌(ぎじ)鉤が等間隔に6~10本枝鉤式についたサビキ仕掛けをつけ、いちばん下は水深に応じて30~80号のオモリをつける。擬餌は魚皮や薄いゴム片などを鉤に結んである。釣り方は、いずれも海底に仕掛けを落とし、ここから3~4メートルあげて寄せ餌を散らして魚を寄せる。潮色、水温、季節により、底から何メートル上で魚が食うか、泳層(タナとよぶ)を探るのがこつである。
防波堤釣りは、棒ウキや玉ウキのウキ釣りと、船同様にサビキ仕掛けの釣り方がある。アジは視力がよいので、細いハリスが有利である。寄せ餌は必要で、鉤にはアミなどの餌をつける。
一般に市場に出回るのはマアジ、ムロアジ、シマアジの3種が多い。四季を通じて味が変わらないので用途が多い。アジには、「ぜんご」という突出した硬い鱗(うろこ)がある。それを尾のほうから包丁を入れて取り去ってから料理する。塩味によくあうので、塩焼きや塩干品など塩で調味するのがよい。
マアジは東京方面ではヒラアジ、メダマ、クロの3型に分類して扱われることもある。ムロアジの名は「室津(むろつ)の味(あじ)」の意味で、その昔、室津(兵庫県室津)に遊里があり、美人が多くいたので、ムロアジの名ができたという。ムロアジはマアジより脂肪が少なく、身はもろいが、伊豆諸島名物のクサヤの干物には好適な材料として用いられており、また普通の干物にもされる。シマアジは一年中味が変わらないが、とくに6~7月ごろは美味である。姿も大きく、肉量も多いが、高級魚なので価格も高い。刺身、すし種に用いることが多い。
マアジ、ムロアジは、えらとわたをとり、姿のまま衣をつけないで揚げる素揚げや、衣をよくつけて揚げる、から揚げもよい。なお揚げる場合、大きいものは二度揚げすると骨まで食べられる。とりたての新鮮なマアジは、たたきなますの味がよい。すし種にはマアジの小さいものを皮をむいて用いる。