国家にとって好ましくないと認める外国人を強制力をもって国外に排除する行政作用をさす。追放ともよばれる。
どのような外国人の入国を認め、あるいは送還するのかを判断するのは国家の主権的権能の一つであり、このことは国際慣習法上も承認されている(「外国人の地位に関する条約〈1928年ハバナ条約〉」など)。しかし、国家が完全に恣意的に判断できるものではなく、入国や送還などの場面ごとに国際的規律が設けられている(世界人権宣言13条、自由権規約12条・13条など)。各国は主権のもと、国際人権規範を取り込みながら外国人の入国・送還に関する法制度を構築している。日本では「出入国管理及び難民認定法(入管法)」によって具体的な仕組みが設けられている。
日本では、強制送還は、いったん入国した後にオーバーステイ(超過滞在)などを理由に送還されること(退去強制)とほぼ同義に用いられることが多いが、広義には、外国人が空港などに到着したときに入国拒否され送還される場合(退去命令)も含まれる。また、出国命令は自発的な出国と位置づけられるが、刑罰を科すことによって出国義務の履行が担保されている点(入管法70条1項8号の2)では広義の強制送還の一種である。さらに他国で罪を犯し、逃亡してきた犯罪人引渡しも広義の強制送還の一種と解されることがある。
入管法では送還先は被送還者の国籍国を原則としているが、その国が被送還者の受入れに協力的ではない、被送還者の国籍を確認できないなどの事情により送還できない場合は、被送還者とつながりを有する別の国に送還される。ただし、送還された先で迫害を受けるおそれがある場合には送還先から除外される(入管法53条。ノン・ルフールマン原則)。
入管法上、実際に送還する手段として、国費送還(入管法52条3項)、自費出国(入管法52条4項)、運送業者の責任と費用による送還(入管法59条。ただし実例は少ない)がある。国費送還の一種として、被送還者を大量に、安全、確実に強制送還を実現するために被送還者を出入国在留管理庁(入管庁)がチャーターした航空機による集団強制送還が行われている。しかし、2021年9月29日に東京高等裁判所は、難民該当性および送還の適法性を裁判によって事実上争うことができないため、入管庁による集団強制送還は裁判を受ける権利を侵害すると判示した。
2023年(令和5)に法改正が行われ、送還に抵抗するなど、円滑な執行に協力しない場合には退去命令(入管法55条の2)が課せられ、命令に違反した場合には刑罰が科せられることになった(入管法72条)。しかし、送還先で迫害を受けるおそれがある場合には被送還者が必死に抵抗することが予想され、このような場合にまで刑罰を科して送還を担保する規定はノン・ルフールマン原則違反になりかねないと批判されており、慎重な適用が求められる。
2004年(平成16)の法改正により、難民認定申請を行うと退去強制手続を一時的に停止する規定が導入された(送還停止効)。しかし送還を忌避する手段として濫用されていることを理由に、2023年には重大な罪を犯して有罪判決を下された者や、3回目以降の難民認定申請をした者は送還停止効が解除され、難民認定申請中でも送還できるように改正された(入管法61条の2の9)。日本国内の犯罪と本国における迫害のおそれは別個のものであること、本国の事情の変化により迫害を受けるおそれが変化することから、同規定はノン・ルフールマン原則違反と批判されている。