国際刑事裁判所(略称ICC)は、国際犯罪を犯した個人を裁くための常設の国際的な司法機関で、オランダのハーグにある。ICCは、1998年ローマでの全権外交会議で採択された条約(「国際刑事裁判所に関するローマ規程」、略称ICC規程またはローマ規程)によって設置された。ICC規程は2002年に発効し、ICCは2003年から活動を開始した。ICC規程には、日本を含む124か国・地域が締約国となっているが、アメリカ、中国、ロシアなど一部の主要国家が参加していない(2023年10月時点)。
国際犯罪の容疑者を国際的な司法機関で裁くことは、第二次世界大戦後の国際軍事裁判(ニュルンベルク裁判)や極東国際軍事裁判(東京裁判)で初めて行われた。冷戦終了後にも国連安全保障理事会(安保理)が、旧ユーゴスラビアやルワンダの紛争に対して国際刑事法廷(ICTYとICTR)を設置してきた。それらの司法機関は、事件がすでに発生した後に設置されたのに対し、ICCは、将来の犯罪のために設置された点に特徴がある。ICCは、国際犯罪に責任ある者が処罰を免れるという不処罰の文化を終わらせ、そのことによって将来の犯罪を防止することを目的としている。
ICCの裁判は、第一審裁判部と上訴裁判部の二審制によって行われる。加えて検察官の起訴までの活動を監督する予審裁判部がある。ICCはこれらの裁判部に加えて、検察局、裁判所長会議、書記局によって構成されている。
ICCが管轄権を行使できる国際犯罪は、集団殺害(ジェノサイド)犯罪、人道に対する犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪の4種類である。ただしICC規程が発効する前の、過去の犯罪は対象とされない。ICCによる捜査は、犯罪が発生したと考えられる事態を、(1)締約国がICCに付託した場合、(2)安保理がICCに付託した場合、また、(3)検察官がその職権で着手し予審裁判部の許可を受けた場合に開始できる。(1)と(3)の場合には、容疑者が締約国の国民であるか、犯罪が締約国の領域内で発生した場合にのみ、ICCは管轄権を行使できる。また、侵略犯罪の場合には、さらに管轄権の範囲が制限されている。
ICCは、国際犯罪であっても、容疑者を裁く第一次的権限はそれぞれの国家に委ねている。そして、事件が重大なものであって、国家に捜査や訴追を真に行う意思や能力をもたない場合にのみ、事件を受理することとしている(補完性の原則)。ICCは、犯罪被害者に、手続への参加や賠償を求める権利を認めている点にも特徴がある。そして被害者への賠償を支援するために、外部組織として、被害者信託基金(TFV)が設置されている。
ICCは、2023年10月までにアフリカ諸国9か国、31件の事件を扱い、そのほかにも数多くの予備捜査を行っている。2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵略では、2023年3月にロシアの大統領プーチンほか1名に対して、占領地から子どもを不法に移送した戦争犯罪の容疑で、逮捕状を発付している。他方で自ら警察組織をもたないICCには、他の国家の協力なしには捜査や訴追を十分に行うことができないという限界もある。