預貯金を扱う金融機関が破綻(はたん)した際に、預貯金者に預貯金を払い戻すこと。預貯金の一定額まで(日本では元本1000万円までとその利子)の払戻しが保証されるが、これを超えた額については、破綻した金融機関の資産の状況によって、戻ってくる額が決まる。したがって、保証分以外が全額カットされる場合もあり得る。ペイオフの本来の意味は「精算」で、金融機関の破綻処理手段の一つである。払戻しは預金保険制度に基づき、預貯金者に保険の形で払い戻す。アメリカの連邦預金保険を参考に、日本では1971年(昭和46)に導入された。欧米では多くのペイオフ実施例があるが、日本では2010年(平成22)、初めて日本振興銀行に実施された。
日本のペイオフは、利息のつく普通預金、定期預金、定期積金、貯蓄預金などが対象で、外貨預金、譲渡性預金などは対象外であり、払戻しがない。なお、当座預金、利子のつかない決済専用の預金(決済用預金)は全額保護される。銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫などについては預金保険機構が、農漁協については農水産業協同組合貯金保険機構が実務を担当する。ペイオフ実施に際して、同じ預貯金者が一つの金融機関に複数の預貯金口座を保有する場合、それを集約(名寄せ)したうえで、元本1000万円までとその利息を払い戻す。
世界的に、金融システムがきわめて不安定な場合、ペイオフの凍結(預貯金の全額保護)、または払戻額の引上げがなされることが多い。アメリカでは、2023年のシリコンバレー・バンクの破綻でデジタル・バンク・ランが生じた際にペイオフが凍結され、ヨーロッパでもリーマン・ショック時にペイオフの凍結や払戻額の引上げが各国で実施された。日本では、バブル経済崩壊後の1996年(平成8)から2005年まで、ペイオフが凍結され(定期預金など一部預貯金商品は2002年に凍結解除)、預貯金が全額保護されていた。