預金者の保護と金融システムの安定などを目的とする預金保険制度を運営するための認可法人。アメリカの連邦預金保険公社(FDIC)をモデルに、政府、日本銀行、民間金融機関が1971年(昭和46)に共同出資して設立した。銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫などの加入金融機関から保険料を徴収し、破綻(はたん)した金融機関の預金者へのペイオフや破綻機関の業務を引き継ぐ受け皿機関への資金援助を主業務としている。1990年代に入ると、バブル経済の崩壊で金融機関の破綻が急増したため、公的資金の注入などによる資本増強、金融危機時の一時国有化、整理回収機構への出資などの新たな業務が加わった。
金融機関が破綻した場合、預金保険機構は破綻機関の業務を引き継ぐ金融機関への資金援助か、破綻機関の預金者へのペイオフかの、いずれかコストがかからないほうを選択する。日本では2010年(平成22)に初めて日本振興銀行にペイオフを実施し、資金援助については1992年度(平成4)~2022年度(令和4)に182件、約25.5兆円を実施した。ペイオフ実施の際に、同じ預金者が一つの金融機関に複数の預貯金口座を保有する場合は、それを集約(名寄せ)したうえで、元本1000万円とその利息までを払い戻す(ただし決済用預金や当座預金は全額払戻し)。これを上回る預金額は、金融機関の資産状況に応じて払い戻す。
1990年代後半からの金融不安に際し、預金保険機構には旧経営陣にかわって破綻機関の業務を運営する金融整理管財人業務、一時的に破綻機関の事業を譲り受けるブリッジバンク(承継銀行)の設立、旧経営陣の責任追及業務などが加わった。また、内閣総理大臣が金融危機と認定した場合には、預金の全額保護、公的資金の注入、一時国有化などの対応ができることになった。さらに、振り込め詐欺救済法(正式名称「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律」平成19年法律第133号)に基づく詐欺被害者へ被害金を返還する手続や、休眠預金等活用法(正式名称「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律」平成28年法律第101号)に基づく休眠預金の収納・管理業務なども担当している。預金者保護や金融安定化などのため10の独立した勘定を機構内にもち、2023年(令和5)3月末で10勘定の資金調達残高は合計約1.1兆円である。