インド太平洋地域でアメリカが主導する新しい経済圏構想。英語の頭文字をとってIPEF(アイペフ)と略称する。アメリカ大統領のバイデンが2021年10月に提唱し、2022年5月に発足した。参加国間で経済安全保障につながる各種協定を結び、インド太平洋地域で影響力を増す中国に対抗するねらいがある。参加国はアメリカ、日本、インド、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、タイ、ベトナム、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ブルネイ、フィジーの14か国。当初、参加を希望した台湾は加わっていない。インド太平洋経済枠組みは、域内総生産(GDP)で世界の約4割を占める巨大経済圏であり、(1)デジタル経済を含む自由貿易、(2)半導体、重要鉱物、医療物資などの供給網強化(サプライチェーン)、(3)脱炭素・水素利用などを促進するクリーン経済、(4)人権保護や反腐敗などの取組みを通した公正な経済、の4分野に関する基準やルールをつくり、協定の締結・批准により、域内の経済安全保障に取り組む。市場開放のための関税の撤廃・引下げは協議対象外である。
広域経済圏構想「一帯一路」を掲げ、RCEP(アールセップ)(東アジア地域包括的経済連携)に加わった中国はTPPにも加盟申請し、インド太平洋地域での影響力を強めている。一方、アメリカは前大統領トランプによりTPPから離脱しており、インド太平洋経済枠組みによってアジア太平洋地域での経済的主導権を回復するねらいがある。しかし関税交渉を協議対象外としたため、参加した新興国に自由貿易の恩恵が及びにくい欠点がある。また、アメリカで政権交代があった場合に、合意が守られるかどうかも不透明である。日本政府は「アメリカ政府のTPP復帰がより望ましい」との姿勢をとりながら、対米関係を重視し中国を牽制(けんせい)する観点から、インド太平洋経済枠組みに参加している。