野球選手が、日本のプロ野球(日本野球機構、NPB)球団からアメリカの大リーグ(MLB)球団に移籍する制度の一つ。日本語では「入札制度」ともよばれるが、「ポスティング」とはMLBの全球団に対して、当該選手を獲得可能であるとMLBコミッショナーが告示することである。この制度によって、国外のいずれの球団とも選手契約を締結できる「海外フリーエージェント(FA)権」がない選手でも、所属球団がMLB球団への移籍を容認すれば、制度に基づいた手続をとることによって移籍できる。1998年(平成10)にNPBとMLBの間で協定が結ばれてから2012年(平成24)までは最高入札額を提示したMLB球団が当該選手を獲得できる仕組みだった。入札金額が高騰したことなどにより旧制度は2012年末に一度失効し、修正協議を経た2013年末以降は、当該選手を保有するNPB球団が設定した譲渡額に基づいて交渉が行われる仕組みに変更された。さらに2018年末以降は譲渡額が選手の契約金総額と連動する仕組みになり、現在に至っている。
日米間の選手移籍については、1967年(昭和42)に調印された日米選手協定によって確立された「身分がフリーなら選手に直接接触できる。保留選手なら球団間の協議とする」という身分照会システムを基本とし、その後アマチュア選手についても「両国内ルール(プロアマ協定、新人ドラフト制)を相互に尊重する」といった内容が日米両コミッショナー間で合意に達していた。
しかし、1995年にFA権をもたない野茂英雄(のもひでお)(近鉄バファローズ。現、オリックス・バファローズ)が、球団との移籍交渉が決裂した結果、任意引退の形をとってMLBのロサンゼルス・ドジャースと契約した問題を契機として、協定の見直し協議が行われた。この時点では「両国内ルールを尊重することを再確認する」「アマチュア選手にも身分照会の手続をとる」ことで合意したが、1997年に同じくFA権をもたない伊良部秀輝(いらぶひでき)(1969―2011)の移籍問題(所属球団の千葉ロッテマリーンズが、業務提携を結んでいるサンディエゴ・パドレスに独占交渉権を与えたことから、伊良部本人とMLBの他球団が反発し、最終的に三角トレードの形で伊良部がニューヨーク・ヤンキースに入団した問題)が発生したため、同年4月にMLB最高経営会議が「日本プロ野球側と新協定をつくるまで、日本球団の保留選手の獲得は凍結する」と通達し、同年6月にはMLB側から新協定としてポスティングシステムの提案がなされた。そして1998年に「日米間選手契約に関する協定」が締結され、最初のポスティングシステムが始まった。
この制度を利用して初めてMLB球団と契約したのはアレファンドロ・ケサダAlejandro Quesada(1978― 、広島東洋カープ)で、1999年にシンシナティ・レッズに移籍したが、ケサダは2Aまでしか昇格できず、MLBではプレーしなかった。この制度で移籍して初めてMLBでプレーしたのは、ポスティングシステム利用2例目のイチロー(オリックス・ブルーウェーブ。現、オリックス・バファローズ)で、2000年オフにシアトル・マリナーズと契約し、2001年から主力選手として活躍した。
当初の制度は金額非公開での自由入札方式で、最高入札額を提示したMLB球団に独占交渉権が与えられる仕組みであった。しかし、評価の高い選手の場合には入札金額が非常に高騰したこともあって2012年にMLB側から修正の提案があり、協議が進まないうちに同年末をもって協定は失効した。2012年までに旧制度で移籍した選手はケサダ、イチローを含めて13人であった。
その後、紆余曲折(うよきょくせつ)を経たものの2013年末に新協定が成立し、当該選手の所属するNPB球団が上限を2000万ドルとする譲渡金を定めてMLB球団に告知する方式になった。これに応札するすべてのMLB球団と当該選手が交渉可能になったことと、譲渡金に上限が設けられたことによって入札額の高騰が抑えられるようになったことが大きな変更点である。一方、NPB球団としては旧制度でみられたような大きな見返りは期待できなくなった。この新制度は2018年まで続き、4人の選手がMLB球団に移籍した。
2018年オフには、譲渡金の設定が当該選手の契約内容の総額によって変動する仕組みに変更され、総額2500万ドルまでは20%、2500万ドルから5000万ドルまでは17.5%、5000万ドルを超えた部分には15%を乗じて算出することになった。これにより譲渡金が従来の上限である2000万ドルに達する可能性はほとんどなくなった。現在の制度でMLB球団に移籍したのは、2024年(令和6)1月時点で10人である。
同じ移籍制度であるFA制度との決定的な違いは、所属球団が当該選手の希望を認めないとポスティングシステムを利用できない点にある。そのため、日本プロ野球選手会は「選手の意志に基づく移籍が実現できない」として、さらなる見直しの要求を続けている。