親の働く権利と家族の生活を守るために、共働きやひとり親家庭の小学生を、放課後や長期休業日に保育すること。現在、その法的根拠は、児童福祉法(昭和22年法律第164号)第6条の3第2項「小学校に就学している児童であって、その保護者が労働等により昼間家庭にいないものに、授業の終了後に児童厚生施設等の施設を利用して適切な遊び及び生活の場を与えて、その健全な育成を図る事業」(放課後児童健全育成事業)とされている。学童保育が行われる場所を「学童保育所」というが、市町村によって、「放課後児童クラブ」「児童クラブ」「留守家庭児童会(室)」「学童保育クラブ」など、呼び名はさまざまである。
1967年(昭和42)に結成された民間の学童保育専門団体である全国学童保育連絡協議会の報告では、学童保育は1940年代後半から民間保育園などで始まったとされている。当初、児童福祉法には、日中家庭に保護者がいない児童も保育所に入ることができる旨の規定はあったものの、実際には乳幼児だけで満杯になるなどの状況から、学童保育はほとんど行われていなかった。核家族化の進行、共働き家庭の増加などで、学童保育を必要とする家庭が年々増えるなか、当初厚生省(現、厚生労働省)は留守家庭児童対策として児童館で対応することにしていたが、学童保育ニーズの高まりから、これまでつくられてきた既存の学童保育所に対して自治体や国からも補助金が出るようになった。
1997年(平成9)に児童福祉法が改正され、学童保育が「放課後児童健全育成事業」として法制化された。これによって、市町村は学童保育の利用に関する相談・助言を行い、本事業を促進するよう努めなければならないこととなった。本規定の成立後、学童保育を「放課後児童クラブ」、対象児童のことを「放課後児童」、働く職員のことを「放課後児童指導員」とよぶようになった。2023年(令和5)5月時点で、放課後児童クラブ数は2万5807か所、登録児童数は145万7384人(こども家庭庁調べ)。
2015年(平成27)からスタートした「子ども・子育て支援新制度」により、学童保育に関する各制度が改正された。おもな改正点は以下のとおりである。
(1)2012年の児童福祉法改正(2015年4月施行)により、対象児童を規定していた条文「おおむね10歳未満」が削除され、保育が必要なすべての小学生が対象になった。
(2)「放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準」(平成26年4月30日厚生労働省令第63号)が策定・公布された。市町村はこの基準を踏まえて、条例で基準を定めることになった。
(3)上記基準には「放課後児童支援員」という資格をもった職員を2人以上配置することが定められたため、職員は都道府県知事が行う認定資格研修を受講し、修了することが必要になった(詳細は後述)。
(4)学童保育の運営の多様性を踏まえつつ、学童保育において集団のなかで子どもに保障すべき生活環境や運営内容の水準を明確化し、事業の安定性および継続性を確保する観点から、2007年に策定された「放課後児童クラブガイドライン」を見直し、基準をより具体的な内容にするため「放課後児童クラブ運営指針」が策定された。
(1)公立公営 市町村が運営(直営)。
(2)公立民営 市町村が設立して運営は地域運営委員会、社会福祉協議会、父母会・保護者会などに委託。
(3)民立民営 民間学童保育。社会福祉法人や学校法人、NPO法人、民間企業などが運営。行政からの補助もある。なお、民間企業などが運営する民間学童のなかには、「放課後児童クラブ」ではない、いわば「アフタースクール」(塾)もある。
(1)学校敷地内の余裕教室(空き教室)。
(2)学校敷地内の独立専用施設。
(3)児童館・児童センター内。
(4)学校外専用施設。
(5)その他の公的施設(公民館、公立保育園、公立幼稚園など)。
(6)私立保育園や私立幼稚園、社会福祉法人の施設内。
(7)民家・アパートなど。
放課後児童指導員(以降、指導員)の雇用や身分等はさまざまである。2014年度までは、市町村や学童保育の施設によっては、採用条件等で「保育士」「教諭」などの資格・免許が求められるところもあったが、国が定めた指導員の資格はなかった。しかし、2012年の児童福祉法改正(2015年4月施行)により、学童保育の基準が厚生労働省令で定められ、指導員については資格と配置基準が定められた。指導員には「放課後児童支援員」という資格が必要になった。放課後児童支援員は、保育士や社会福祉士、教諭などの免許・資格をもっていることなど9項目のいずれかを満たした者で、都道府県が実施する16科目24時間の認定資格研修を受講することが必要である。配置基準は、放課後児童支援員を2人以上置くことが求められ、但し書きで「そのうち1人は補助員でも可能」とされた。ところが、2019年の地方分権一括法成立により、2020年以降は、放課後児童支援員を1人も置かず補助員だけでもよいこととなった。放課後児童支援員の資格が誕生して以降、これまでの放課後児童指導員という職名が放課後児童支援員もしくは補助員という職名になったため、「放課後児童支援員等」「支援員等」とよぶようにもなってきている。
指導員の雇用や身分等については問題や課題が多い。厚生労働省は2014年度に処遇改善をスタートさせ、2015年度には「放課後児童支援員等処遇改善事業」、2017年度には「放課後児童支援員キャリアアップ処遇改善事業」を開始し、現在に至る。処遇改善により、1日6時間以上勤務の指導員が増えたものの、依然として6時間未満の指導員が5割以上を占めている。そして、午後からの勤務で、打合せや準備の時間が仕事として保障されていないところが多いこともわかっている。また、週20時間以上勤務する指導員においても、約半数の指導員が年収150万円未満となっている。さらに、経験年数5年未満の指導員が約半数を占め、すべての職員が経験年数3年以上の職場が約3割となっている厳しい現実がある(全国学童保育連絡協議会2018年調べ)。放課後児童クラブ運営指針には、「子どもとの安定的、継続的な関わりが重要であるため、放課後児童支援員の雇用に当たっては、長期的に安定した形態とすることが求められる」「放課後児童支援員等の勤務時間については、子どもの受入れ準備や打合せ、育成支援の記録作成等、開所時間の前後に必要となる時間を前提として設定されることが求められる」とあるように、「放課後児童支援員」の資格はもとより、こうした指導員をめぐる厳しい現実を改善することが必要である。
児童館は、児童福祉法第40条に基づいて、児童遊園と同じく児童に健全な遊びを与え、その健康を増進したり、情操を豊かにしたりするための厚生労働省所轄の児童厚生施設(児童福祉施設の一つ)であり、18歳未満のすべての児童を対象にしている。
厚生労働省は長い間、留守家庭児童対策は児童館で行うという方針であったが、1991年度から留守家庭児童対策は児童館活動とは別に必要な事業として位置づけ、補助制度を設けた。しかし、児童館・児童センターに放課後児童クラブを併置していることがまだある。2023年5月時点で、児童館・児童センターで放課後児童クラブを実施しているのは、2386か所(9.2%)となっている(こども家庭庁調べ)。
「放課後児童クラブ運営指針」では「児童館の中で放課後児童クラブを実施する場合は、放課後児童クラブに通う子どもの育成支援の環境及び水準が担保されるようにする」とされている。ところが、児童館に併設されている放課後児童クラブでは、待機児童解消の名のもと児童館として必要な空間も一部活用して受け入れているところがあり、「放課後児童クラブに通う子どもの育成支援の環境及び水準が担保され」ているとはいえないケースもある。その点でも、待機児童の解消のための施設整備が強く求められる。
すべての子どもを対象とした放課後の安全な遊び場づくり・居場所づくりは、本来児童館がこれを担う役割をもっている。しかし、児童館の整備が進まないことと同時に、少子化による小学校の余裕教室の増加に伴い、市町村が余裕教室を活用して独自の事業を始めている。これが「全児童対策事業」といわれるものである。1992年から大阪市が始めた「児童いきいき放課後事業」、翌1993年から横浜市が始めた「はまっこふれあいスクール事業」などがこれにあたる。いくつかの市町村では、財政的な理由もあり、「全児童対策事業」を始めることで学童保育を廃止(「統合」)あるいは縮小(補助金削減など)するところがでてきた。1991年に学童保育に補助制度が設けられ、児童館活動とは区別された点を考えれば、その目的が遊び場づくり・居場所づくりにとどまる「全児童対策事業」と、「生活の場」の保障である学童保育とは明確に区別されるものであり、学童保育を廃止・縮小することはあってはならないことである。
2007年度から文部科学省と厚生労働省が連携して総合的な放課後対策「放課後子どもプラン」を推進してきた。厚生労働省は学校施設などを活用して放課後児童クラブを2万か所増やす、文部科学省は新しく「放課後子供教室」(学校施設を活用して遊びや体験活動などを行う)を始めるというプランだった。当初、二つの事業を「一体的あるいは連携」して推進するとしていたが、二つの事業は目的・役割や実施方法が異なるため、「一体化」ではなく、それぞれの事業の拡充と連携という形で実施されてきた。これをもとに新たに策定されたのが2015年度から推進されている「放課後子ども総合プラン」である。
「放課後子ども総合プラン」は、学童保育の受入れ児童数を5年間で30万人(2018年度末までに120万人)に増やすこと、学校施設を徹底活用すること、約2万か所で学童保育と「放課後子供教室」を「一体的に又は連携して実施」し、うち1万か所以上を「一体型」で実施するというものである。2018年の「新・放課後子ども総合プラン」では2023年度末までに約30万人分増やし、約152万人にすることとされた。ただ、学童保育と「放課後子供教室」との場所や事業、職員の「一体化」には問題がある。学童保育の目的・役割は「放課後児童クラブ運営指針」に詳細に説明されているとおり「生活の場」の保障であり、「全児童対策事業」と同様に、すべての子どもを対象にした遊び場や居場所づくり、体験活動を目的とする「放課後子供教室」とはその役割が大きく異なる。そのため、両事業を学校内で「一体型」として実施する場合には、学童保育の本来の役割が果たせるよう、基準に基づき、条例に従い、かつ「放課後児童クラブ運営指針」に基づいた専用室と専任指導員のもとで継続した生活が保障される実施形態にする必要がある。
すでに触れた点以外にも、学童保育をめぐる課題は山積している。
一つ目は、待機児童の解消である。2023年5月時点で1万6276人の待機児童が存在する(こども家庭庁調べ)。また、全国学童保育連絡協議会によると「多くの民営の学童保育では運営者や施設に直接申し込むことが多いため、市町村が実態を正確に把握できていないことも推測され」るとしている。さらに、学童保育のない、あるいは事業を廃止した市町村があることもわかっている。そのほか、待機児童としてカウントはされていないが、「低学年の入所のために高学年を退所させる」事例や、集団規模が大きいまま、限界まで受け入れることによる「マンモス状況」もまだみられるなど、待機児童の解消は喫緊の課題である。
二つ目は、本来あるべき学童保育と、現在行われている放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)との違いである。先に学童保育の定義として「親の働く権利と家族の生活を守るために、共働きやひとり親家庭の小学生を、放課後や長期休業日に保育すること」と述べた。とすれば、学童保育所では、たとえば平日の「おやつ」の提供はもとより、夏休みなどの長期休暇中においては昼食(給食)を提供しなければならないだろう。また、乳幼児保育と同様に、一時保育や病児・病後児保育も整備されなければならないはずである。そもそも、保育所は児童福祉施設であるが、学童保育所は放課後児童健全育成事業という児童福祉「事業」に過ぎず、児童福祉施設ではない点も制度上の大きな課題として指摘しておきたい。
三つ目は、学童保育の「保育」とは何かという点である。児童福祉法上、「保育」とは「養護及び教育」とされているが、対象が「学童」という小学生の場合に「養護及び教育」という理解だけでよいだろうか。増山均(ひとし)(1948― )によれば、「養護及び教育」という乳幼児「保育」の概念に加えて、「遊育」(遊び・文化権の保障)、「甦育(そいく)」(失敗やつまずきから更生する権利の保障)、「治育」(自治・参加権の保障)の三つの「育」に配慮する必要があるとしている。
学童保育とは何か、放課後児童健全育成事業とは何が異なるのか、現状を踏まえて研究する必要がある。