児童福祉法(昭和22年法律第164号)第40条に基づいて、児童遊園と同じく児童に健全な遊びを与え、その健康を増進したり、情操を豊かにしたりするための厚生労働省所轄の児童厚生施設(児童福祉施設の一つ)。「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」に基づき、市町村の条例に従い、児童館には集会室や遊戯室、図書室、便所がかならず設けられている(児童福祉施設の設備及び運営に関する基準37条)。
日本における児童館活動は、セツルメント運動の子どもを対象としたさまざまな活動のなかにその源流をみることができる。セツルメント運動とは、19世紀イギリスで始められた社会福祉事業で、貧民が住むところに学生やキリスト教関係者が住み込み、彼らの生活を改善するためにいっしょに勉強したり、文化的活動をしたり、生活相談にのったり、人々の暮らす環境を整備したりといった一定の地域におけるさまざまな活動のことである。20世紀の初めに日本に伝わり、東京や大阪、神戸などの大都市部で展開された。
第二次世界大戦後、戦災孤児や浮浪児を保護するだけでなく、すべての子どもたちひとりひとりの個性や可能性を最大限に発達させることを「健全育成」と考え、これを目的にした児童福祉法が誕生した(1947)。児童福祉法で健全育成の理念を地域社会で実現する施設として第40条に定められたのが、児童館である(当時すでに44館の児童館が開設されていた)。
児童福祉法が施行されたものの、保護すべき子どもが最優先であり、かつ必置の義務がないことから児童館の整備は遅れ、児童福祉法成立後十数年間は200館程度しか開設されていない。1960年(昭和35)ころから各地で学童保育所の設置を求める運動が活発になり、また高度経済成長による工業化、都市への人口移動、都市環境の悪化による遊び場の不足、子どもの交通事故の多発なども相まって、1963年に厚生省(現、厚生労働省)は市町村立の児童館の施設整備費・運営費に対して補助金を出すことにした。これが児童館に対する最初の国庫補助となった。1968年に全国児童館連絡協議会が結成され、1975年には全国児童館連合会の設立など、児童館の活動を推進する全国組織が整備されていった。ところが、1980年代になると「地方分権」のもとで、1986年に人件費の国庫補助が廃止(地方交付税措置化)され、1997年(平成9)には公設公営児童館の事業費が廃止された(県立を除く公設公営分が地方交付税措置化)。さらに2012年(平成24)には、民間児童館の事業費も廃止された。1985年に開館した全国唯一の国立総合児童センターであり、全国の児童館のシンボル的存在であった「こどもの城」は、施設の老朽化や、さまざまなタイプの民間テーマパークができるなど遊び場が多様化したこと、自治体で児童館の整備が進んできたこと等を理由に2015年に閉館した。2022年10月時点での児童館設置数は4301か所(公営2323か所、民営1978か所)となっている。
(1)小型児童館 小地域を対象として、児童に健全な遊びを与え、その健康を増進し、情操を豊かにするとともに、母親クラブ、子ども会等の地域組織活動の育成助長を図る等、児童の健全育成に関する総合的な機能を有する施設である。
(2)児童センター 小型児童館の機能に加えて、遊び(運動を主とする)を通じての体力増進を図ることを目的とする事業・設備のある施設。また「大型児童センター」は、1994年から法令上の位置づけがされたもので、中学生、高校生等の年長児童に対しての育成支援を行う施設である。
(3)大型児童館 原則として、都道府県内や広域の子どもたちを対象とした活動を行っており、A型とB型に区分されている。都道府県が設置する大型児童館では、当該県内の児童館とのネットワーク構築を推進することが期待されている。そのため、情報収集や県民等への情報提供、運営委員会の開催、研修事業、広報事業などが行われている。また、大型児童館内での事業にとどまらず、県内の児童館や児童館が設置されていない地域に対してのアウトリーチ(専門性やノウハウを届ける)として、移動児童館活動が実施されている。
〔A型児童館〕都道府県内の小型児童館、児童センターの指導や連絡調整等の役割を果たす。設置運営要綱上、建物の広さが2000平方メートル以上に加え、適当な広場を設けるとされているため、大きな施設規模を誇る。児童センター種別の施設設備に加えて、研修室や多目的ホールなどの設置が要綱に例示されているため、総合的な健全育成活動の展開が期待されている。芸術、科学、文化、歴史、地域風土、食、環境など多様なテーマをもつ展示設備・大型遊具を配置し、子どもたちがふれて体験して育っていくことを支えるハードとソフトを意識してつくられている。
〔B型児童館〕豊かな自然環境に恵まれた地域内に設置され、子どもが宿泊しながら、自然を生かした遊びを通じた健全育成活動を行っている。そのため、宿泊施設と野外活動設備がある。設置運営要綱上、B型児童館は1990年度に設置が認められた。
(4)その他の児童館 法令上、児童館の設備・運営に関する諸条件に準じているものであって、公共性および永続性を有し、それぞれの対象地域の範囲、特性および対象児童の実態等に相応したものとされている。明確な基準が存在しないため、届け出た都道府県・市町村の判断による。
児童館には「児童の遊びを指導する者」(通称、児童厚生員)が配置されることになっている(児童福祉施設の設備及び運営に関する基準38条)。また、同条で「児童の遊びを指導する者」は、養成施設を卒業した者や保育士や社会福祉士の資格保持者、教員免許保持者などでなければならないとされている。遊びの指導については、児童の自主性、社会性および創造性を高め、もって地域における健全育成活動の助長を図ることとなっている(同基準39条)。児童厚生員には、〔1〕プレイワーカーとしての役割と、〔2〕児童ソーシャルワーカーとしての役割の二つの役割があると理解されている。
児童福祉法改正や子どもの福祉的課題への対応、子育て支援に対して児童館がもっている機能への期待を踏まえ、2011年3月に策定された「児童館ガイドライン」が2018年に改正された。主に、〔1〕児童福祉法改正および児童の権利に関する条約の精神にのっとり、子どもの意見の尊重、子どもの最善の利益の優先等について示したこと、〔2〕児童福祉施設としての役割に基づいて、児童館の施設特性を新たに示し、(1)拠点性、(2)多機能性、(3)地域性の3点に整理したこと、〔3〕子どもの理解を深めるため、発達段階に応じた留意点を示したこと、〔4〕児童館の職員に対し、配慮を必要とする子どもへの対応として、いじめや保護者の不適切な養育が疑われる場合等への適切な対応を求めたこと、〔5〕子育て支援の実施について、乳幼児支援や中・高校生世代と乳幼児の触れ合い体験の取り組みの実施等の内容を追加したこと、〔6〕大型児童館の機能・役割について新たに示したこと、といった観点で改正された。
0歳から17歳までの子どもを対象とする児童福祉施設である児童館は、これまで以上に重要な役割を担うことが求められる。都市化による子どもの遊び場や居場所の不足はもとより、子育て不安・困難や低い自己肯定感、いじめや非行問題、子どもの貧困・孤立など、現代の子どもをめぐる問題は深刻化している。しかし、いまだに児童館がまったくない市町村もあり、東京の「こどもの城」のように老朽化や財政難を理由にした閉館や統廃合も今後出てくる可能性がある。また、児童館に配置される児童厚生員とよばれる職員は、子どものプレイワーカーおよびソーシャルワーカーともいえる高い専門性を必要とするにもかかわらず、その待遇(労働条件)は低くおかれている。そのため児童館には、その増設はもとより、専門性を有した職員の配置・増員と、その待遇の改善が今後求められる。