国境を越えて取引される商品に課せられる税金。自国を通過する商品に課せられる通過税、外国への輸出品に課せられる輸出税、外国からの輸入品に課せられる輸入税がある。このうち通過税は、通過貿易の諸利益、つまり取扱い手数料、運賃、保険料、保管料、艀賃(はしけちん)などを失うことになるので、19世紀の後半ごろより各国でしだいに廃止されていった。また輸出税も、課税分だけ輸出品価格を高め、国際競争力を弱めて輸出を阻害することになるので、現在では財政収入を維持しようとする国以外はこれを廃止している。イギリスでは輸出税を1845年に、日本でも1901年(明治34)に廃止している。したがって今日では、関税は輸入品に課せられる税金、すなわち輸入関税という意味で使用されている。
関税の機能としては、国家財政における収入機能(財政関税)と国内産業保護機能(保護関税)の二つの側面から議論されることが多い。
前者は関税の徴収により財政収入をもたらすという機能である。このような収入機能を主目的とする関税を財政関税または収入関税という。主要な財源を他に求めることが困難であった時代には、関税は税制のなかで主要な地位を占めていた。たとえば、19世紀前半ごろ(1800~1860)のアメリカにおいて歳入に占める関税収入の割合は約85%であった。その後、国民経済が発展するにつれ、先進国は生産活動により生ずる所得に財源を求めるようになったため、関税の財源調達手段としての役割は低下してきた。実際、日本でも国税収入に占める関税収入の割合は約1.3%(2021年度決算ベース)と非常に低い状態になっている。とはいえ、開発途上国では現在でもなお関税を財源確保の重要な手段としているところもある。
他方、関税が課せられると、輸入品の国内価格は上昇し、輸入量は減少する。そのためコストが高くて輸入品と対等に競争できなかった国産品の生産を増大させうる。このような関税の効果を国内産業保護機能という。また、この機能を主たる目的として競争輸入品に課せられる関税を保護関税という。これには幼稚産業を保護し育成しようとするもの(育成関税)と、既存産業を保護し維持しようとするもの(維持関税)とがある。
しかし、国内産業が過度に保護されると不公正な貿易が横行するようになる。そのため、貿易歪曲(わいきょく)効果を有する措置への対抗策として関税が用いられる場合がある。たとえば、アンチ・ダンピング協定(ガット〈GATT、関税および貿易に関する一般協定。世界貿易機関=WTOの前身〉第6条の実施に関する協定)において、ダンピングが行われていると認められる場合にアンチ・ダンピング関税によりその是正を図る場合などである。このような場合に用いられる関税の機能のことを貿易歪曲効果是正機能(制裁機能)という。
関税には以上のような機能があるものの、関税賦課は世界経済全体の公正性を低下させる可能性をはらむことから、1947年以来、ガットのもとで、ケネディ・ラウンド、東京ラウンド、ウルグアイ・ラウンドなどの数次にわたる各国の関税交渉により、実行関税率が逐次引き下げられてきた。その結果、日本の鉱工業品の実行関税率(貿易量加重平均)は1.5%となり、アメリカ3.5%、ヨーロッパ連合(EU)3.6%、カナダ4.8%と比較しても相対的に低い水準となっている。とはいえ、農産品をはじめとする分野では、各国で高関税のまま維持されている品目も依然として存在している。
日本の関税制度は主として関税3法、つまり関税法(昭和29年法律第61号)、関税定率法(明治43年法律第54号)、関税暫定措置法(昭和35年法律第36号)、および外国との関税に関する条約により運営されている。関税法は関税の納付や徴収、保税地域(関税の徴収が留保されている地域)の運用、輸出入貨物の通関など一般関税行政に関する事項を規定している。関税定率法は関税率、課税標準、報復関税や不当廉売関税などの特殊関税、関税の軽減、免除または払戻しなどについて規定している。関税暫定措置法は関税法および関税定率法の特例法として、現在の産業や経済の変動に対応して一定期間、暫定的に適用される関税率、関税の減免および戻し税、特恵関税などを規定している。
関税は関税法第4条により輸入者の輸入申告に基づき税関に納付される。その場合に適用される税率を関税率という。関税率には、国内法によって定められた国定税率(基本税率、暫定税率、特恵税率等)と条約で約束された協定税率がある。
日本の国定税率は関税定率法と関税暫定措置法によって定められている。このうち関税定率法で定められているものを基本税率、関税暫定措置法によるものを暫定税率という。また、関税暫定措置法では特恵税率、つまり開発途上国など特定の国との貿易を発展させるために、それらの国からの輸入品に対してのみ適用される一般より低い関税率を定めている。他方、協定税率は、WTO協定において譲許された税率のほか、経済連携協定(EPA)交渉の結果に基づき二国間・地域間において適用されるEPA税率がある。
以上、基本税率、暫定税率、特恵税率、協定税率のうちの一つが輸入品に対して適用される。この税率のことを実行関税率という。実行関税率は次の適用順位により決定される。すなわち、特恵税率の適用を受ける場合を除き、原則として協定税率、暫定税率、基本税率の順で適用される。ただし、協定税率が他の税率より高い場合は、暫定税率または基本税率が適用される。
実行関税率に係る関税賦課では関税率表が基準となる。関税率表は関税分類番号(物品ごとに割り当てられている)と関税率(関税分類番号に対応している)からなっている。ここで各国が自国に有利になるように恣意(しい)的に関税分類の運用がなされれば、関税率の引き下げ交渉が事実上無効化してしまうことから、関税分類は非常に重要な意味をもつ。
関税分類については、1988年に関税協力理事会Customs Co-operation Council(CCC。通称は世界税関機構World Customs Organization:WCO)において「商品の名称及び分類についての統一システムに関する国際条約」International Convention on the Harmonized Commodity Description and Coding System(HS条約)が策定され、2023年時点で160か国・地域およびEUが加盟している。なお、本条約に未加盟であっても、実質的に導入をしている国を含めると200か国・地域で国際貿易の98%を超える取引に及んでいる。
また、HS条約では、自国の関税率表のほか、輸出入統計品目表もHS条約附属書の品目表(HS品目表)に適合させることとされているので、日本の関税定率法、関税暫定措置法の別表および輸出入統計品目表も、これに適合している。
なお、HS品目表は「社会的な要請を受けた品目の項・号の新設、変更」「技術革新を反映した項・号の新設、変更」「貿易が増加した品目の特掲」「貿易が減少した品目の削除」「分類明確化のための技術的な変更」等の理由によって、これまで1992年、1996年、2002年、2007年、2012年、2017年、2022年に改正が行われている。そのなかで2007年にはとくに技術革新が目覚ましいIT(情報技術)関連機器等について新しい分類を設けるなどの改正が行われた。
関税は、税額算定の基準、つまり課税標準を価格に置くか数量に置くかによって従価税と従量税に分けられる。関税定率法第3条には「関税は、輸入貨物の価格又は数量を課税標準として課するものとし、その税率は、別表による」と規定されており、前記の国定関税と協定関税は、すべて品目に応じて従価税や従量税、または、それを組み合わせた形態の関税率で表示されている。
日本において品目数でもっとも多く使用されている関税率の形態は従価税である。従価税の場合には課税標準となる価格、つまり課税価格の決定がたいせつとなる。これには輸入港における価格、輸出港における価格、法定価格(課税価格を法律で決める)などがある。日本では、「ガット第7条の実施に関する協定」(1980発効)により輸入港における価格を適用している。実際にはCIF価格(発送価格に輸入港までの運賃、保険料を加算したもの)がこれにあたり、この価格に従価税の税率を乗じたものが、その輸入品の関税額となる。
他方、従量税は輸入品の数量(個数、重量、容積など)だけを確定すればよいため、行政面では便利であるが、品質や加工度の格差が大きく、それに応じて価格の相違する商品については税負担が不公平になる。これに対して従価税は輸入価格に比例して課税されるから、税負担は公平になる。また、輸入品の価格変動に連動して関税額も変化するのでインフレに対応できるなどのメリットがある。しかし逆に、同種で同質の輸入品であっても運賃などの相違によって関税額が異なるなどの問題があるほか、輸入品の価格が低くなるほど関税額も低くなるので国内産業保護という機能が薄れるというデメリットもある。そのため、現在では多くの国が、この二つの税率をそれぞれ妥当な物品に使い分けており、さらに混合税などを補助的に用いたりしている。混合税は従価税と従量税とを組み合わせたものであり、これには選択税と複合税がある。選択税は同一の商品について従価税と従量税の両方を定め、いずれか税額の高いほう、または低いほうを課税するものである。現在日本では、毛織物、卵黄、魚油、鉛合金の塊などについて適用されている。複合税では、同一の商品について、従量税と従価税とを結合、つまり前者の税額に後者の税額をプラスまたはマイナスしたものを課税する。現在日本では一部の乳製品について適用されている。なお、一部の綿織物には、従価税と複合税との選択税が適用されている。
特殊関税は、特別な事情のある場合、一般の関税のほかに課せられるものである。これには国内産業の保護を目的としたものとしてダンピング防止税(日本では不当廉売関税という)、相殺(そうさい)関税、緊急関税があり、外国の措置への対抗を目的としたものとして報復関税、対抗関税などがある。また関税には、特定の物品について適用されている特別な形態のものがある。これには季節関税、差額関税、スライド関税、関税割当がある。関税は通常、輸入される時期に関係なく、同一の従価税や従量税が課せられる。しかし果実産業を保護するために、国産品が出荷される季節には、これと競合する輸入品に高い関税を、その他の季節には低い関税を課すことがある。このように、季節によって課す関税が異なるものを季節関税という。日本ではバナナ、オレンジ、グレープフルーツの輸入に適用されている。差額関税は、行政当局が定める基準輸入価格と輸入品の課税価格との差額を税額とするものであり、国内の生産者保護と価格安定を目的としている。日本では豚肉の輸入自由化を実施したとき(1971)に採用している。
関税政策は、輸入制限とは異なり、価格メカニズムの作用に基づき輸出入を調整するものである。第二次世界大戦後に通商秩序の確立を意図してつくられたガットが、輸入の量的制限を否定し、関税の引下げを意図しているものの、その除去を規定していないのは、関税政策が価格メカニズムに即した保護政策であるからにほかならない。日本の貿易は戦後、GHQ(連合国最高司令部)の管理下に置かれ、民間貿易が再開されたのは1950年(昭和25)からであった。この新しい事態に対応して関税を大改正(1951)し、これまで従量税中心であった関税率体系を従価税中心のものとした。それは、従量税が定額税であり、戦後の急速なインフレによりほとんど無力化したためである。1955年にはガットに正式加盟したが、国際収支上の理由による輸入制限を継続していたため、関税の機能を十分に発揮する態勢には至らなかった。
しかし1960年代に入って、輸入自由化の時代になると、これまで外国為替(かわせ)予算制度(外貨の使用を予算で決められた枠内に抑えることにより輸入などを制限する制度で、1964年に廃止されている)による輸入管理の背後に隠れていた関税政策の役割がふたたび重視されるようになってきた。西欧主要諸国は1958年末における通貨の交換性回復を契機として、開放体制の時代に入っていた。このような事情を背景として、日本も貿易為替自由化促進計画を決定し(1960)、自由化の基本方針を明らかにした。これに対応してふたたび関税を大幅に改正(1961)した。この改正では自由化対策として関税水準が全面的に再検討され、国際競争力の弱い機械、金属、化学製品や農産物などの関税率は引き上げられた。このときの税率は、原材料には低く加工度の高い商品ほど高くする(このような傾斜的な関税率体系をタリフ・エスカレーションという)、生産財に低く消費財に高くする、などの原則により設定されている。また、この改正では、原油、大豆などを従量税の適用品目とするとともに混合税を採用した。
1960年代後半にはケネディ・ラウンドによる世界的規模における関税の一括引下げ交渉が妥結(1967)している。日本ではその成果(1968年から5か年間に平均35%の関税引下げ)を1968年7月から段階的に実施し、規定より早く1971年4月までに引下げを完了している。
1970年代には、日本は重化学工業を中心とする加工貿易国としての地位を確立した。それとともに国際収支は、経常収支の黒字、資本収支の赤字という先進国型のパターンへ移行している。とくに貿易収支の黒字幅は1970年から1973年にかけて大幅な増大を示した。その過程で対内的には公害など生活環境の悪化、対外的には貿易摩擦に直面してきた。そのため従来の産業重視と輸出優先・輸入節約の経済政策から、産業と福祉の調和、協調的通商関係の維持の経済政策に転換していくことが必要となった。このような事情から、日本は1972年11月に総合的対外経済政策(いわゆる第三次円対策)の一環として、鉱工業品および農業加工品の関税率を原則として一律20%引き下げるという思いきった措置をとった。また、1970年代には先進18か国により特恵関税制度が実施されているが、日本では同制度を1971年から発足させている。
1970年代から1980年代にかけての特筆すべき事項として、東京ラウンド交渉の妥結と実施がある。この交渉は1973年から正式に開始され、当初1975年中に完了することになっていた。しかし、第一次オイル・ショックの発生およびそれによって引き起こされた世界的なインフレの加速化、国際収支の悪化、景気後退を背景にした保護主義の台頭により交渉は予定より大幅に遅れた。1979年になって、ようやく主要国間で実質的交渉が妥結し、日本およびアメリカ、EC(ヨーロッパ共同体)などは1980年から鉱工業製品について平均30%以上の関税引下げを実施している。さらに、1986年に開始され、1994年に合意されたウルグアイ・ラウンドでは、鉱工業製品について平均40%の関税引下げのほか、農作物輸入規制の緩和、サービス貿易や知的財産権に関するルールの導入などの成果が得られた。
このような累次のラウンドによって、各国の関税がしだいに低下していったが、一方でガット体制の枠外で地域貿易協定が結ばれるようになった。加えて、ガットによる貿易ルールはおもにモノを対象にしていたが、国際貿易においてはサービスの比重が高くなってきていた。そこで、ガットを拡大・発展させる形で、新たな貿易ルールをつくるとともに、このルールを運営する国際機関として、1995年にWTOが設立された。
2022年時点では、WTO加盟国は164の国・地域となっている。WTOは多角的な貿易を規律する世界の貿易システムの基盤として、(1)交渉(ラウンド交渉などによるWTO協定の改定、関税削減交渉)、(2)監視(多国間の監視による保護主義的措置の抑止)、(3)紛争解決(WTO紛争解決手続による貿易紛争の解決)といった機能がある。また、WTOでは、加盟国が交渉(ラウンド)を通じて相互に関税を引き下げていくことを目ざしており、WTO協定の目的は、市場経済原則によって世界経済の発展を図ることである。したがって、WTO協定はこの目的に寄与するため、貿易障壁の軽減と無差別原則の適用のために締結される、相互的かつ互恵的な取決めとされている。そして、貿易障壁の軽減と無差別原則の考え方を具体化するために、(1)最恵国待遇原則、(2)内国民待遇原則、(3)数量制限の一般的廃止の原則、(4)合法的な国内産業保護手段としての関税に係る原則、という四つの基本原則がある。ここで(1)と(2)が無差別原則、(3)と(4)が貿易障壁の軽減にあたる。
日本は自由貿易によって恩恵を受けてきたことから、長年にわたって「GATT/WTO多国間貿易体制」に軸を置いてきた。しかし、WTO交渉で採用された二つのルールメーキングの方式((1)コンセンサス方式、(2)一括受諾方式)が障害となり、2001年に立ち上がったドーハ・ラウンドにおいては、先進国と開発途上国の利害対立が解けずたびたび決裂し、ついに膠着(こうちゃく)状態に陥った。
ここでコンセンサス方式とは、加盟国に異議がない場合に限り合意が形成されたとする意思決定の方法であり、一つの加盟国でも反対すれば決定を下せない。また、一括受諾方式とは、交渉の各分野で一分野でも合意できなければ全体として合意しないとするものである。そのために、交渉に時間がかかり、一分野の交渉決裂が交渉全体に波及するという難点があった。
このようにドーハ・ラウンドが膠着状態に陥ったことから、日本においてもFTA(自由貿易協定)を求める声が高まり、2002年(平成14)にシンガポールとのEPAを発効した。その後、日本はFTA戦略を推し進めることになる。加えて、日本貿易振興機構(JETRO(ジェトロ))によると、二国間のFTAのみならず、日・ASEAN(アセアン)包括的経済連携(AJCEP)協定、「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」(CPTPP協定。通称、TPP11(イレブン)協定)、日EU経済連携協定(日EU・EPA)、東アジア地域包括的経済連携(RCEP(アールセップ))協定といった複数国間の協定も締結するようになった。2022年(令和4)時点で日本で発効・署名済みのFTAは21件となっている。