フランスの物理学者。パリ生まれ。1980年パリ近郊のエコール・ノルマル・シュペリュール(高等師範学校)で数学を専攻して卒業。1986年ピエール・エ・マリー・キュリー大学(2018年以降ソルボンヌ大学)、大学院で理論物理学、数学を修め、フランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)から実験物理学で博士号を取得。スウェーデンのチャルマース工科大学で博士研究員として働き、その後、渡米した。1988年に南カリフォルニア大学、1993年にローレンス・リバモア国立研究所の客員研究員を経て、スウェーデンに移り、1995年ルンド大学準教授、1997年に教授に就任した。2004年にスウェーデン王立科学アカデミー会員となる。2007年から2015年までノーベル物理学賞の選考委員。
1980年代、極端紫外レーザーなど超短パルスレーザーを用いて、パルス幅(一つのパルスの持続時間)が短く、連続的に発生するパルス光(高次高調波)の研究を進めてきた。当時は、フェムト秒(10-15秒、1000兆分の1秒)レベルのパルス光しかなく、電子の動きの解明はむずかしかった。1988年に、赤外光レーザーを希ガスに照射すると、もとの波長の5~30数倍も短い波長をもち、強度が減衰することなく連続的にパルス光が発生する奇妙な現象を報告した。通常、周波数が大きく(波長が短く)なると、光エネルギー(強度)は減少するが、この現象ではほとんど強度が減少せず、この発見の成果がフェムト秒より短い光パルス生成に道を拓(ひら)いた。1991年には、この現象が発生する原理を理論的に証明して研究は加速したが、実際にアト秒(10-18秒、100京分の1秒)のパルスの取出しに成功したのは2001年である。パリのサクレー研究所のピエール・アゴスティーニと、ドイツのマックス・プランク量子光学研究所のフェレンツ・クラウスがそれぞれ独自に確認した。アゴスティーニが、アルゴンにレーザーを照射すると、250アト秒のパルスが連続的に発生することを実験で確認した一方で、クラウスは、クリプトンガスに、高強度のフェムト秒パルスを集光することで、パルス幅が650アト秒の、孤立したパルスを取り出すことに成功した。これらの成果によって、アト秒物理学は著しく発展し、物質中の電子がどのように動き、化学変化していくか、きわめて高い精度でとらえることができるようになった。半導体材料などの開発やがん検出などの医療診断に役だつと期待される。
リュイリエは、1997年アメリカ物理学会フェローとなり、2003年ユリウス・シュプリンガー応用物理学賞、2011年ロレアル・ユネスコ女性科学賞、2013年カール・ツアイス研究賞、ブレーズ・パスカル・メダルを受賞し、2018年アメリカ科学アカデミー外国人会員に選出された。2023年「物質中の電子ダイナミクスを研究するためのアト秒パルス光生成に関する実験的な手法」に関する業績で、アゴスティーニ、クラウスとともにノーベル物理学賞を受賞した。