ロシアの固体物理学者。アメリカ在住。ソ連のレニングラード(現在のサンクト・ぺテルブルク)出身。1967年レニングラード大学卒業。1974年ロシア科学アカデミーのヨッフェ物理学技術研究所から博士号を取得し、1977年からバビロフ国立光学研究所の主席研究員などを歴任。1999年からアメリカ・ニューヨーク州にある民間会社ナノクリスタルズ・テクノロジーNanocrystals Technology社の科学者として研究に取り組む。
カラフルなガラスをつくる技術は、古くから職人らの経験をもとに培われていた。同じ物質を混ぜ込んでも発色が異なるなど、その原理は長い間、謎(なぞ)だった。1930年代、物質の直径を数ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)のサイズまで小さくすると、電子が閉じ込められ、物質の特性が大きく変わる「量子効果」がおこることが予測されていた。この小さな半導体の性質をもった物質は、「ナノ粒子」(のちに量子ドット)とよばれ、発色にかかわっていると予測されたが、その存在を証明する技術はなかった。
1980年代初め、ソ連で光学の研究を進めていたエキモフは、ガラスに同じ量の塩化銅を添加して、作成条件を変えるとさまざまな色に発色することを発見した。ガラスの中に生じる塩化銅粒子の粒径が大きくなると赤み、小さくなると青みが強くなっていることを確認。この成果は、1981年にソ連の学術誌に発表されたが、東西冷戦時代で西側の科学者にすぐに知られることはなかった。
ちょうど同じころ、アメリカのベル研究所にいたルイス・ブルースは、溶液の中で、硫化カドミウム結晶を作成中に、ナノメートルサイズまで粒径を小さくすると溶液の青みが強くなることを、エキモフとは別に、独自で発見。1983年にその成果を発表し、条件によって電気的挙動が異なる半導体の性質をもつこのナノ粒子を、「量子ドット」と名づけた。ブルースは、翌1984年にエキモフの論文の翻訳を読むまで、エキモフの成果をまったく知らなかった。
1980年代後半になると、ブルースの研究室にムンジ・バウェンディが加わり、溶液の温度管理を調節することで粒のそろった量子ドットを安定的に製造する技術を確立した。
3氏の発見・合成により量子ドットを大量に製造できるようになったことで、高性能の液晶ディスプレー、薄型で安価な太陽電池、体内の物質動態をとらえる蛍光マーカーなど幅広い技術、製品の開発などに利用が広がっている。
エキモフは、1975年ソビエト連邦国家科学工学賞、2006年フンボルト賞、R・W・ウッド賞を受賞。2023年に「量子ドットの発見と合成」の業績で、バウェンディ、ブルースとともにノーベル化学賞を受賞した。