アメリカの化学者。オハイオ州クリーブランド生まれ。海軍予備役将校訓練課程(NROTC)の奨学金を得て、1965年ライス大学卒業。1969年にコロンビア大学から博士号を取得。大尉として海軍に戻り海軍研究試験所の研究員として勤務し、1973年にAT&T・ベル研究所に移り、「量子ドット」とよばれる、数ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)のサイズの半導体結晶が大きさによってさまざまな色を発することを発見した。1996年にコロンビア大学教授、のち名誉教授。
量子化学の分野では、物質の直径を数ナノメートルサイズまで小さくすると、電子が閉じ込められ、物質の特性が大きく変わる「量子効果」がおこることが1930年代に予測されていた。この半導体の性質をもつ粒子は「ナノ粒子」とよばれ、その量子効果を証明するナノ粒子の存在は半世紀近く、証明されなかった。
ベル研究所にいたブルースは、1982年、溶液の中で、硫化カドミウム結晶を作成中に、ナノメートルサイズまで粒径を小さくすると溶液の青みが強くなることを発見、翌1983年にその成果を発表した。条件によって電気的挙動が異なり、半導体の性質をもつこのナノ粒子を、「量子ドット」と名づけ、溶液の中に浮遊する粒子のサイズ依存量子効果を世界で初めて証明し、量子効果の理論を構築した。
実はちょうど同じころ、東西冷戦時代のソ連バビロフ国立光学研究所で研究していたエキモフは同様の現象を発見。ガラスに同じ量の塩化銅を添加して、粒径を小さくするなど作成条件を変えるとさまざまな色に発色することを確認、1981年にソ連の学術誌に発表した。しかし1984年まで西側諸国の科学者に知られることはなく、ブルースは、エキモフの論文の翻訳を読むまで、その成果を知らなかった。
1980年代後半になると、ブルースの研究室に加わったムンジ・バウェンディが、溶液の温度を高温にしたり、低温にしたり、温度調節することで、粒径がねらい通りのナノサイズになるさまざまな量子ドットを安定的に作成する手法を確立した。量子ドットが大量に製造できるようになったことで、高性能ディスプレー、太陽電池への応用が進んだほか、がん細胞の体内動態の追跡など医学への応用も始まっている。
ブルースは、2001年アービング・ラングミュア賞、2006年R・W・ウッド賞、2008年カブリ賞、2009年ウィラード・ギブス賞、2010年アメリカ科学アカデミー賞(化学部門)、2012年バウアー賞、2013年ウェルチ賞を受賞。2023年に「量子ドットの発見と合成」の業績で、バウェンディ、エキモフとともにノーベル化学賞を受賞した。