日付変更線より東の太平洋赤道海域で、平均海水温度が、ふつう6か月ほど連続して0.5℃くらい平年より高くなる現象。これとは対照的に、同じ海域で海水温度が低くなる現象はラニーニャ現象とよばれる。エルニーニョ現象やラニーニャ現象は、日本を含め世界中の異常な天候の要因になりうると考えられている。
南アメリカのペルー、エクアドル沖は南大洋(南極海)から北上する寒流のペルー海流(フンボルト海流)が流れており、また、岸近くの冷たい湧昇流(ゆうしょうりゅう)もあって水温は低く、世界有数の漁場となっている。この海域の海面水温が上昇すると海況がまったく変わり、魚類、プランクトン、とくにカタクチイワシ(アンチョビー)の量が激減し、それを餌(えさ)にする鳥類も死ぬか飛び去ってしまうという大きな海洋災害が発生する。この現象はクリスマスのころにおこることが多いところから、現地では昔からエルニーニョ(スペイン語で男の幼子、英語でChrist Childの意)とよばれていた。近年の研究では、エルニーニョは現象的にはペルー沖の局所的なものでなく、太平洋全域の海洋、大気の循環に密接に結び付いていることが明らかになってきたことから、単にエルニーニョではなくエルニーニョ現象とよばれるようになった。
平常時の熱帯域は、貿易風とよばれる東風がつねに吹いており、海面付近の温かい海水が太平洋の西側に吹き寄せられている。このため、西部のインドネシア近海では温かい海水が蓄積し、東部のペルー沖ではこの東風と地球の自転の効果で深い所から冷たい海水が湧(わ)き上がっており、海面水温は西で高く東で低くなっている。
エルニーニョ現象が発生している時には、東風が平常時より弱まり、太平洋赤道域の西部にたまっていた温かい海水が東に広がるとともに、東部では冷たい水の湧き上がりが弱まっている。このため、エルニーニョ現象発生時には、積乱雲が盛んに発生する海域が平常時より東へ移る。この影響でインドネシアは干魃(かんばつ)になり、一方、ペルーの砂漠地帯では雨が降る。
エルニーニョ現象が発生すると、夏の日本付近では、太平洋高気圧の張り出しが弱くなり、気温が低く日照時間も少なく、西日本の日本海側では降水量が多くなる傾向がある。冬の日本付近は西高東低の気圧配置が弱まり、気温が高くなる傾向がある。
ただ、1990年代以降、エルニーニョでなくても暖冬の年もあり、冬の天候とエルニーニョ現象の関係は、今後の重要な研究課題となっている。
近年における顕著なエルニーニョ現象は、1957年春~1958年夏、1972年春~1973年春、1982年春~1983年秋、1997年春~1998年夏、2014年春~2016年春におきた。