都市再開発には狭義・広義の2通りの意味がある。狭義には、建築物の老朽化や公共施設の荒廃化が進み都市環境が極度に悪化している既成市街地、たとえばスラムや不良住宅地区において既存建築物や公共施設を全面的にクリアランス(除去)し、再開発目的に従って建築物と公共施設などを一体的に整備することをいう。いわゆる「スクラップ・アンド・ビルド方式」に基づく物的な市街地改造事業のことであり、都市再開発法に基づく市街地再開発事業や住宅地区改良法に基づく住宅地区改良事業などがこれにあたる。
広義には、1958年にオランダのハーグで行われた都市再開発国際会議の定義がある。これによると、都市再開発は都市環境が悪化した既成市街地を安全で健康的かつ文化的な居住環境に再生させる意味の「都市更新」(アーバン・リニューアル)という包括的ネーミングが採用され、そのなかに「再開発」(リデベロップメント)、「修復」(リハビリテーション)、「保全」(コンサベーション)の三つの内容が含まれるとしている。1番目の「再開発」は狭義の再開発とほぼ同意義である。2番目の「修復」とは、都市環境が悪化しつつある既成市街地において、建築物の部分的な建て替えや修理修繕、改造や設備の近代化などにより居住環境を改善することである。3番目の「保全」とは、建築制限や用途規制、緑地保全などを通して良好な都市環境を維持することである。したがって広義の都市再開発は「既成市街地を対象とした都市計画」とでもいうべき幅広い内容を包含している。
日本の都市再開発は、第二次世界大戦前は関東大震災を契機とする被災市街地の土地区画整理事業およびバラック住宅のスラム化に対する不良住宅地区改良事業としてスタートし、戦後は戦災復興土地区画整理事業に受け継がれた。そして戦後復興が一段落して高度経済成長が始まる1960年(昭和35)から1961年にかけて市街地改造事業、防災建築街区造成事業、住宅地区改良事業等が相次いで創設され、既成市街地における再開発事業手法が整った。さらに高度経済成長の本格化とともに既成市街地の再編による土地の高度利用が課題となり、1969年に都市の立体化を図る都市再開発法が制定された。当該地区の土地・家屋の権利者が事業組合を組織して、あるいは自治体や公団などの公的機関が事業主体となってすべての建築物を除却して新しいビルを建設し、従前の権利者に相当分の床を移転し、余剰床は権利者以外のテナント(賃借人、出店者)に譲渡もしくは賃貸してその収益を事業費にあてるという仕組みである。
しかし、スクラップ・アンド・ビルド方式の再開発は都市機能の更新とは裏腹に、ともすれば従前住民の転出をもたらし、地域コミュニティの崩壊を導きやすいこと、経済成長の鈍化と人口減少に伴ってテナントの確保と余剰床の売却が困難となり、再開発事業そのものの採算がとれなくなりつつあることなど、問題がしだいに深刻化している。都市の激しい機能転換と高度化が求められた高度経済成長時代が遠くに去ったいま、地区住民の定住条件を確保するための都市成熟時代の再開発手法が求められている。狭義の都市再開発は広義の都市再開発へ、いまや確実にそのスタンスを移行させているのである。