従来、都市再生は主として「都市更新」の意味で用いられてきた。都市更新とは、物的環境が悪化した既成市街地を安全・健康・文化的な市街地に再生させるための都市計画であり、その手法によって再開発・修復・保全に3区分されている。いわば都市環境を物的に更新し、都市機能を回復させるための一連のハードな都市計画事業のことをさしている。
しかし最近になって、都市再生という語にはより根源的な意味が託されるようになった。その含意は、都市の社会・経済・環境の衰退化を防ぎながら、都市の持続可能な発展(サステイナブル・デベロップメント)を維持するために必要な都市機能を回復・活性化させるということである。いいかえれば、都市の生命力を維持・発展させるための都市活動全般の再生を表す包括的な語であるといえる。その時代背景は、いうまでもなく現在の日本における世界に類をみない少子高齢化の進行と史上初めての人口減少社会への突入であろう。
ここで想起されるのは、1970年代後半から1980年代前半にかけてオランダのクラッセンLeo H. Klaassen(1920―1992)やアメリカの地理学者たちによって提起された都市の発展段階説である。クラッセンらは都市構造を中心市(コア)と郊外(リング)の総体である都市圏(アーバン・リージョン)としてとらえ、両地域における人口動向を分析することによって、都市の発展段階を都市化、郊外化、反都市化、再都市化に4区分した。1980年代は、当時のアメリカ都市人口の広域的分散傾向を反映して反都市化傾向に関心が集中していたが、1990年代以降はヨーロッパの反都市化から再都市化への転換を踏まえて再都市化現象にも注目が集まるようになった。
欧米諸国の反都市化と再都市化の概念は、主として大都市圏における人種問題や少数民族の社会統合問題をめぐる人口移動分析に基づいて提起されたものであるが、日本では少子高齢化の進行に基づく地方都市や大都市圏郊外の人口減少問題と関連して、郊外化や反都市化に続く再都市化現象すなわち都市再生が、いまや都市政策や都市計画の新しいキーワードになりつつある。
事実、2005年(平成17)国勢調査の結果は、日本の総人口がすでにその前年においてピークに達し、都道府県別人口も大都市圏14都府県と沖縄県を除いて残り32道県がすべて2000年国勢調査と対比して減少に転じたことを明らかにしている。また、2020年(令和2)国勢調査においては、2015年国勢調査と対比して、東京都、埼玉県、神奈川県など8都県を除く全国39道府県がすべて人口減少に転じた。
かつて都市再生が都市更新の文脈で用いられていた時代は、都市再生のターゲットは大都市既成市街地(インナーシティ)の衰退化をいかに防ぐかにあった。しかし、いま都市再生が新たにクローズアップされてくる背景には、国土全体を覆う人口減少のもとで地域格差が急速に拡大し、その中核としての地方都市が衰退と存亡の危機に直面していることがある。また、都心回帰が喧伝(けんでん)される大都市圏においても、低質な市街地では家族・コミュニティの崩壊に伴う社会問題が多発する一方、遠隔郊外地では空家・空地化による居住地の立ち枯れ現象も顕在化してきている。
20世紀の都市問題が、急激な経済成長下でのインフラ(社会的生産基盤)不足に象徴されるハードな成長型都市問題であったとすれば、21世紀の都市問題は、都市の社会経済活動が衰退することによって生じるソフトな衰退型都市問題であるところに大きな特徴がある。その意味で、都市再生は21世紀の都市問題に立ち向かう戦略的な政策概念として再登場し、これからの持続可能な都市発展を担う重要な都市計画コンセプトであるといえよう。