従来は「知能」といわれてきた知的活動が、近年では「認知機能」と表現される。その検査を意味する認知機能検査の対象は、さまざまな精神疾患なども含めて本来幅広いが、実際には、認知症が疑われる際の検査をさすことが多い。
そうしたものとして、認知症の可能性の有無を簡易にチェックする「改訂長谷川式簡易知能評価スケール」(Hasegawa's dementia scale-revised:HDS-R)、また「ミニメンタルステート検査」(mini-mental state examination:MMSE)が有名である。いずれも認知症のスクリーニング(認知症の可能性のある人の検出)を目的とする30点満点の検査法であり、その得点から認知症を診断できるものではない(あくまでも診断の「参考」に用いる)。HDS-Rでは20点以下、MMSEなら23点以下であれば認知症が疑われると大ざっぱに予測する。また最近では、認知症の根本治療を目ざす治療薬の開発の進行とともに、認知症の前駆状態である軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)をスクリーニングする必要が生まれた。そうした検査として「モントリオール認知評価」(Montreal cognitive assessment:MoCA(モカ))が広まりつつある。MoCAは30点満点で、25点以下がMCIの疑いとされる。
これらとは異なり、アルツハイマー病の新規治療薬の開発と治験では、その薬物効果を測るうえでのゴールドスタンダードとされる認知機能検査もある。つまりこの検査で得点が改善すれば、当該薬剤は治療効果をもつと考えられるものである。その検査とは「アルツハイマー病評価スケール―認知機能版」(Alzheimer's disease assessment scale-cognitive subscale:ADAS-cog(エーダスコグ))である。なお、従来の薬物は、MCIよりも進行した認知症の人を対象に開発されてきた。そのためオリジナルのADAS-cogでは、MCIにおいて特徴的に低下するとされる認知機能である記銘力の測定を主目的とする遅延再生課題(覚えた事柄を一定時間後に思い出させる課題)は重視されていなかった。しかし最近では、MCIやそれ以前のステージの人を対象とするようになったので、遅延再生課題を盛り込んだ「改訂版ADAS-cog」も広く用いられている。
なお日本では、道路交通法の改正(2017)により、後期高齢者の運転免許更新の際に知的検査が行われるようになった。その検査が、いわば固有名詞として「認知機能検査」という名で全国的に行き渡っていることに注意する必要がある。