教員になる前の準備教育をさす。これに対し、教員として就職したあとの教員の学びは教員研修という。英語では、前者をteacher preparationまたはteacher training、後者はin-service education of teachers、あるいは、professional development of teachersとよぶことが多い。教師教育teacher educationという用語も使われるが、これは、養成と研修をあわせた意味で使われる。
日本においては、戦前は、初等学校の教員養成は中等学校レベルの師範学校で、中等学校の教員養成は、専門学校レベルの高等師範学校で行われ、強い聖職意識をもつ「師範タイプ」とよばれる特色のある教員が養成された。第二次世界大戦後、教員養成は大学で行われること、および、すべての大学で必要な単位を取得すれば教員免許状が取得できる「開放制」を二大原則とする新しい教員養成制度が成立した。ただし、開放制の下でも、戦後長い間、小学校教員養成に関しては、教員養成を主たる目的とする国立の教育大学や学部等で養成し、一般大学においては中学校や高等学校の教員を養成するという抑制策がとられてきた。しかし、2005年(平成17)にこの抑制策が撤廃され、一般大学においても小学校の教員養成を目的とする学科の設置が認められたことにより、現在、小学校教員の養成を行う一般大学が急増している。
1966年の国際労働機関(ILO)と国連教育科学文化機関(UNESCO(ユネスコ))の「教員の地位に関する勧告」以降、教職を専門職として認めることが世界的に広まっていったが、専門職として認められるためには、長期の知的な専門教育が不可欠である。日本では、第二次世界大戦後、教員養成は大学で行うことを原則とし、4年間の学士課程における教員養成において教育職員一種免許状を取得することが標準となった。さらに、教員養成の大学院(修士課程)の設置が進められ、1990年代なかばまでにすべての国立の教育大学・学部に修士課程の大学院が設けられ、加えて、複数の大学による博士課程の連合大学院も設けられた。他方、開放制の下で、一般大学の大学院においても、規定の単位を取得することで「専修免許状」を取得することができるようになった。こうした動きのなかで、2000年に大学院修学休業制度が定められ、教員の身分を保有したまま大学院で学ぶことが可能となった。
さらに、高度専門職業人の育成を目ざす専門職大学院制度の一環として、新たに教職大学院が導入され、2008年に開設された。その目的は、(1)学校現場における職務についての広い理解をもって自ら諸課題に積極的に取り組む資質・能力を有し、新しい学校づくりの有力な一員となりうる新人教員、(2)学校現場が直面する諸課題の構造的・総合的な理解にたって、教科・学年・学校種の枠を超えた幅広い指導性を発揮できるスクールリーダー、を育成することにある。2023年度(令和5)時点で、全国に54校(国立47校、私立7校)設置されている。
他方、戦後長い間、学士課程における教員養成を標準としてきた教員免許制度を変え、大学院修士課程までの教員養成を標準とすべきであるとの主張が現れた。それが民主党政権による教員養成の高度化案であった。民主党は、2009年7月に、衆議院選挙マニフェスト「教員免許制度の抜本的見直し、教員の養成課程は6年制(修士)」を発表し、大学院レベルまで日本の教員養成を引き上げることを提唱した。この構想は、教員免許状の基礎資格を、学部卒から大学院にまで引き上げる画期的な改革案であったが、民主党が政権をとった後に具体的に検討されたものの、実現をみる前に民主党政権が倒れ、2012年に自民党が政権に復帰したことにより立ち消えとなった。それ以降、自民党政権下での教師教育改革においては、こうした高度化案が議論されることはなく、2021年1月の中央教育審議会(中教審)答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」と、それに続く同年11月の中教審特別部会による「『令和の日本型学校教育』を担う新たな教師の学びの姿の実現に向けて(審議まとめ)」においても、教員不足を背景として、むしろ、大学での教員養成を経ないで得られる特別免許状の拡大を目ざしたり、教員養成よりもむしろ入職後の教員研修に力をいれる改革を提唱している。さらに、文部科学省は、「教員養成フラッグシップ大学」の仕組みを創設し、現行の教育職員免許法を弾力的に運用することによって、優れた研究・人材育成の拠点として全国的な教員養成の高度化に貢献する大学を指定することにし、2022年3月に、東京学芸大学ほか3大学を「フラッグシップ大学」として認定した。
これに対して、2023年10月、教師教育の専門学会である日本教師教育学会は、開放制の下での大学における教員養成の充実と高度化を目ざして、教員の基礎資格を大学院修士レベルまで引き上げるための教員養成制度の新たなグランドデザインを発表している。
教員養成の質を保証する仕組みとして課程認定制度がある。教員免許制度が教員個々人の資質・能力を保証する制度であるのに対して、課程認定制度は、その基礎となる大学の教職課程の質を保証することを目的とするものである。教職課程を新たに設けようとする大学は、文部科学大臣に教職課程の申請を行い、中央教育審議会課程認定委員会での審議を経て、教職課程が認定される仕組みである。2015年12月の中央教育審議会答申「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について」により、全国の大学等に置かれている教職課程の内容が大幅に改正されることになり、2019年度から全国一斉に新しい教職課程をスタートさせるために、全国の大学の教職課程の再課程認定が行われた。その際、新たに教職課程および英語教育についてのコア・カリキュラムが作成された。これは、教職課程の各事項について学生が修得する資質・能力を「全体目標」、全体目標を内容のまとまりごとに分化させた「一般目標」、学生が一般目標に到達するために達成すべき個々の基準を「到達目標」として示したものであり、各大学の授業担当者は、自らの担当科目のシラバスに到達目標をかならず加えることが要求された。こうした施策は、多様な形で行われている教員養成に一定の共通性を導入することによって、教員養成の質を保証することを目的としているが、他方、各大学や科目担当者の自由や創造性を縛るものであるという批判もある。
また、大学における教員養成の質を保証するための課程認定制度は、諸外国においても行われており、その実施主体は政府によるものと専門職団体によるものの2種類がある。後者は、大学教育の質の保証は、大学関係者を中心として自律的に行うという「専門職的自律性」の伝統のうえにつくられたものである。日本においても、こうした質の保証制度が可能かどうか検討されたが、評価に係る事務負担の過度な増大を懸念して、第三者による質の保証制度の導入は断念され、これにかわり、現在、学校教育法(昭和22年法律第26号)に基づいて行われている自己点検・評価のなかで教職課程の評価も行われることになった。これにより、2022年度より、各大学は、教職課程に関する「全学的な組織体制の整備」および「自己点検・評価」を行うことが求められることになった。