BRICS(ブリックス)とよばれるブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国の5か国が中心となって運営する国際金融機関。略称NDB。アジア、アフリカ、中南米など、途上国のインフラ整備のための融資を目的とする。第二次世界大戦後の世界経済を支えた欧米主導の国際通貨基金(IMF)・世界銀行(国際復興開発銀行)体制に対抗、あるいはこれを代替するねらいがある。2012年にインドが創設を提唱。2014年のBRICS首脳会議(フォルタレザ・サミット)で正式に設立が決まり、2015年に発足した。BRICS開発銀行、BRICS銀行ともよばれるが、新興・途上国の追加加盟を想定し、正式名称は「新開発銀行」となった。いわば新興国版の世界銀行である。2021年にバングラデシュ、アラブ首長国連邦(UAE)、2023年にエジプトが加盟し、ウルグアイが加盟予定となっている。2023年にはエチオピア、イラン、サウジアラビアのBRICS加盟で合意したことから、これらの3か国も新開発銀行に加盟する見通しである。資本金は当初500億ドル(創設5か国均等出資)だったが、加盟国増で526億9400万ドル(2023年末時点)となった。いずれの国も創設5か国の同意なしに資本金割合を増やすことはできない。新規加入を認めるが、創設5か国の出資比率が55%を下回ることはない。通貨危機などに備えた「外貨準備基金」も設立し、同基金は「払込資本」が1000億ドル。トップは総裁で任期は5年。総裁人事は5か国の持ち回りとし、2024年時点の総裁はブラジルの元大統領ルセフDilma Vana Rousseff(1947― )である。本部を中国の上海(シャンハイ)に置き、南アフリカ共和国に「アフリカ地域センター」を設け、アフリカ向け融資の拠点とした。途上国の道路、電力、空港、下水道などのインフラ整備計画を対象として2016年から融資を始め、2023年時点の融資額は約300億ドルである。
現在のIMF・世界銀行体制に対し、かねてBRICSなどの新興国には、勃興する新興・途上国向けの資金需要をまかなえていないうえ、支援時に新興・途上国に求める財政規律や市場改革内容が厳しすぎるとの不満があった。このためアジア・アフリカ諸国は新開発銀行設立を歓迎した。しかし新開発銀行は脱米ドル・自国通貨建て融資の拡大を掲げながら、実際には資金の多くをドル建て資金に依存。2020年のロシアのウクライナ侵攻で、西側諸国が対ロ制裁に踏み切ったため、日米欧からの資金調達が難航し、新規融資はほぼ停止した。資本金を発足7年後に1000億ドルに増やす計画も2023年時点で実現していない。新開発銀行は資金源を増強するため、加盟国の拡大を進める計画である。