家庭外での食事機会(外食)に対して食品の提供とサービスを行う業種の総称。1970年代に業界への大資本の進出と市場規模の急激な拡大が進展し、それを契機にこの名称が生まれた。
個人の食料費支出に占める外食費の比率(外食率)は、1970年代に、所得水準の相対的な向上、余暇時間の増加、とりわけ女性の労働人口の増加などを背景に上昇(1970年の9.3%から1979年の13.5%)した。外食産業の市場規模は1979年(昭和54)に総額13兆6182億円となり、その後も成長を続け、1997年(平成9)には29兆0702億円(前年比1.5%増)に達した。それ以降は、ゆるやかな減少ないし横ばい状態が続いている。
日本フードサービス協会の「令和3年 外食産業市場規模推計について」(2023年3月)によると、新型コロナウイルス感染症(COVID(コビッド)-19)流行前の2019年(令和1)の市場規模は、26兆2687億円(前年比2.1%増)だった。その内訳は、飲食店、宿泊施設、社員食堂、病院給食などを含む「給食主体部門」が21兆2538億円(前年比2.2%増)で全体の80.9%を占め、喫茶店、居酒屋などを含む「料飲主体部門」が5兆0149億円(前年比1.4%増)で全体の19.1%を占めた。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大時に政府・各自治体が発出した「緊急事態宣言」や「まん延防止等重点措置」などによって、営業時間の短縮や酒類提供の制限が行われ、インバウンド需要や企業などの宴会需要もほぼなくなったことで、飲酒を主体とする業態などが深刻な影響を受け、2020年から2022年にかけて大幅な前年割れが続いた。2021年の市場規模は16兆9494億円(前年比6.9%減)となり、そのうち給食主体部門は14兆9048億円(前年比4.1%減)で全体の87.9%、料飲主体部門が2兆0446億円(前年比23.3%減)で全体の12.1%となった。
外食産業の発展は、従来、生業的、家業的な経営によって占められていた飲食業界に、1969年の飲食業の資本自由化(外資の参入)を契機に、経営革新の波が業界全体に押し寄せることとなった結果である。総合商社、スーパーマーケット、百貨店など大手商業資本がファストフード(すし、そば、うどん、ラーメン、牛丼(ぎゅうどん)など和食系、ハンバーガー、フライドチキン、ピッツァ、ドーナツ、アイスクリームなど洋食系)や郊外型ファミリーレストラン業界(当初は洋食系、ついで和食・中華系)に進出し、同一資本の計画と統制によるか、もしくはフランチャイズ・システムによって標準規模の店舗を多数展開する、チェーン・ストア経営方式による企業規模の大型化を実現した。さらにセントラル・キッチン方式(中央集中調理方式)の導入によって「均質な味覚」「安価な値段」「良質のサービス」を可能にし、若年層を中心に顧客を大量にひきつけることに成功した。
1998年以降、消費者の健康志向の高まりから安全食材の導入(有機食品の導入、人工着色料や合成添加物の使用全廃)が広がったこと、また病原性大腸菌O157(おーいちごなな)対策を契機に本格化したHACCP(ハサップ)(Hazard Analysis and Critical Control Pointの略称。危害分析に基づく重要管理点)導入などは、中堅・中小企業に資金負担となっており、ファストフード、ファミリーレストラン、事業所給食の分野で大手と中小チェーンの格差拡大を助長する要因となっている。ファストフード、ファミリーレストランの業界大手企業は、有機食材の使用や規模にものをいわせた低価格などを売り物にして、全国に出店攻勢をかけており、資金力の乏しい中小チェーンでは減益を強いられ、なかには倒産するものも出るなど、寡占化が進行している。
カジュアルレストラン業界、とりわけディナーレストラン業界では、酒類と料理の取り合わせに関して、顧客志向の多様化、高級志向と低価格志向の両極分化が進展している。たとえば、健康・本物志向を反映したワインの多種化にあわせてイタリアン・レストランが定着した反面、フランス料理においてもヌーベル・キュイジーヌ(新しい料理)を目ざす新傾向の出店がみられ、中華料理では本格中華のほか、中国小皿料理、中国家庭料理といった多様化が図られている。また、和食系でもアメリカから逆輸入された和洋折衷料理を提供する個性派店舗など、伝統にこだわらない店舗も出現している。さらに韓国料理やタイ料理、ベトナム料理、メキシコ料理、トルコ料理などさまざまなエスニック料理店の出店も全国的に増加した。
居酒屋業界でも、客の本物志向や健康志向に対応するために魚介類の鮮度を看板としたり、本格焼酎の品ぞろえを売りにしたりする店舗が増える一方で、徹底的な効率化によって低価格志向への対応をより鮮明にしたチェーン店も伸びている。女性客を主要なターゲットにしたメニューを提案する店の増加も目だつ。麺(めん)類店のうち、そば・うどん店では、麺の味や品質で勝負する店が増えた反面、夜は銘柄酒や生ビールに和・洋・中華風の一品料理を提供する居酒屋兼営店も定着した。こうした傾向は、スタンド形式の立ち食いそば店でもみられる。また、ラーメン専門店の増加傾向が続くとともに、さまざまな個性的な味や食べ方の料理を提供する店舗の成長も目だっている。
1990年代末ごろから、コンビニエンス・ストア、百貨店(いわゆるデパ地下)、スーパーマーケットの弁当・総菜の売上げの増加が顕著になってきた。これは、アメリカのスーパーマーケット業界におけるHMR(Home Meal Replacementホームミール・リプレイスメント=家庭料理を代行するもの)やMS(Meal Solutionミール・ソリューション=食事の問題解決)というマーケティング手法の影響に加えて、日本でもとりわけコンビニエンス・ストアの弁当・総菜に対する消費者の支持が拡大・定着したことで、外食と家庭内食の中間に位置づけられる「中食(なかしょく)」が成長市場として注目されるようになったことによるものである。中食の専門店チェーンを出店する企業、さらには一流ホテルのレストラン部門や高級和食店、中華料理店などによる新事業としてのデパ地下や専門店街への出店が定着し、その結果、中食店の魅力が百貨店や専門店街の魅力そのものに大きく影響するようになっている。また、ピッツァ、すし、弁当、総菜など各種の食事を宅配(デリバリー)する店舗も増え続け、激しい競争が展開されている。中食産業の担い手も、外食産業と同様に大手資本による寡占化が進んでおり、地域に密着した個人経営の総菜店などは後継者不足なども重なって、衰退傾向が止まらない。
中食産業は、統計上は「料理品小売業」としてとらえられており、その市場規模は、新型コロナウイルス感染症流行前の2019年で7兆7594億円(前年比1.3%増)、2021年で7兆5357億円(前年比0.4%増)となっており、新型コロナウイルス感染症の流行による影響は多少あったものの、外食産業に比べると軽度であった。