政策的目的により税負担を軽くするため、標準税率より低い税率を適用すること、または適用される低い税率。中小企業、特定地域、特定品目などを保護する目的で、法人税、酒税、関税などに幅広く適用されているが、日本では消費税の軽減税率をさすことが多い。一般に、所得が低い人ほど所得に占める消費割合が高くなる傾向にあり、また、消費税の税負担感が重くなる逆進性があるとされているため、低所得層の税負担を和らげる目的で世界の多くの国々が生活必需品の消費税に軽減税率を適用している。
日本では、消費税の標準税率が8%から10%に上がった2019年(令和1)10月から、初めて消費税に軽減税率が導入された。対象品目は飲食料品(外食・酒類を除く)と新聞(週2回以上発行されている定期購読契約紙)で、適用される軽減税率は8%。軽減税率導入で複数税率が並存するため、経過期間を設けて2023年10月から、事業者に対し、商品ごとの税率(税額)を正確に計算できる適格請求書(インボイス)を導入した。ただし適格請求書導入は事業者の経理処理を煩雑にするため、中小・零細事業者にとって負担の軽い事業者免税点制度や簡易課税制度も引き続き利用可能とした。事業者免税点や簡易課税は、消費者が支払った消費税が国や地方公共団体に納められず、中小事業者の手元に残る「益税」を膨らませるおそれがあり、徴税を確実にするため政府は2029年10月までの経過措置を設けながら、適格請求書の利用を促している。軽減税率導入で、税収は年間1兆円程度減少するため、政府は医療・介護制度の自己負担増や適格請求書の普及による益税解消などで財源を確保する計画である。
海外ではイギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、スウェーデンなどヨーロッパの大半の国々のほか、中国、メキシコ、オーストラリア、カナダなどが、日本の消費税に相当する付加価値税に軽減税率を導入している。これらの国々の多くでは付加価値税の標準税率が10%台~20%台と高めに設定されており、食料品、水、光熱費、医薬品、住宅、新聞・書籍、旅客運賃、宿泊費などに軽減税率が適用されている。たとえば2023年3月時点でイギリスの標準税率は20%であるが、食料品や医薬品の軽減税率は0%、光熱費は5%などである。ただし食料品でもキャビアなどのぜいたく品には標準税率を課す国もあり、軽減税率適用にあたっては品目の線引きがむずかしいという問題がある。なお、経済協力開発機構(OECD)加盟国で適格請求書を導入していない国は、付加価値税のないアメリカのみである。