日本大百科全書（ニッポニカ）

硬骨魚綱スズキ目タナバタウオ科タナバタウオ亜科に属する海水魚。伊豆大島、八丈島、伊豆半島、高知県柏島（かしわじま）、愛媛県愛南（あいなん）町室手（もろで）、大分県佐伯（さいき）市付近の沿岸、屋久島、南西諸島、小笠原（おがさわら）諸島、台湾南部、ミクロネシアなど西太平洋とインド洋に広く分布する。体は長円形で、側扁（そくへん）する。吻長（ふんちょう）は眼径よりも短い。主上顎骨（しゅじょうがくこつ）は眼窩（がんか）の後縁付近に達する。舌上には歯がない。前鰓蓋骨（ぜんさいがいこつ）は二重の縁辺をもつ。主鰓蓋骨には棘（きょく）がない。胸びれの基底下端部前方にある鰓条膜に突出部がある。鱗（うろこ）の中心（焦点ともいう）はぼやけており、そこから全方向に放射線が出る。側線は2本で、背方の側線は鰓孔上端付近から始まり、背びれの基底の近くを通って、その後端近くまで走る。中央の側線は背びれ棘後部の下方の体側中央から始まり、尾びれの基底近くに達する。それぞれの側線有孔鱗（ゆうこうりん）数は18～21枚と6～13枚。背びれは鰓孔の上端の上方から始まり、体の後部まで伸び、11棘7軟条。背びれの棘部の鰭膜（きまく）は深く切れ込む。臀（しり）びれは背びれ棘部の中央下方から始まり、背びれの後端の下方まで達し、3棘8～9軟条。臀びれ基底長は背びれ基底長の半分以下。腹びれは1棘4軟条で、第1軟条は肥厚、2分枝し、伸長して後端は臀びれ軟条部まで達する。尾びれの後縁は丸い。体は黒褐色で、興奮時には体側に5本の黒色横帯が出現する。目の後方に2本の暗色縦線がある。背びれ棘部と尾びれの後縁は橙（だいだい）色で縁どられる。背びれの基底部付近に1本の青色の縦帯がある。潮だまり（タイドプール）、礁湖の石やサンゴの下に隠れているが、夜に泳ぎ出て、小形甲殻類、魚類、巻貝などを食べる。全長は12センチメートルほどになる。雄は卵を保護する。

　本種が属するタナバタウオ亜科Plesiopinaeは、背びれと臀びれの棘がそれぞれ11～13本と3本で、背びれの棘部と軟条部の間に欠刻（切れ込み）がなく、側線は普通2本、腹びれ第1軟条が2分枝し、伸長することなどが顕著な特徴である。

［尼岡邦夫］2022年6月22日