国や地方自治体の財政運営を放漫にするのではなく、秩序正しく運営するという概念、あるいは規範。財政上の考え方で、厳密な定義はない。歳入と歳出のバランスが保たれて財政収支が均衡していると、財政規律の健全性は保たれているとされる。景気循環に伴って歳出・歳入額が変動するため、単年度の歳出を歳入に見合った範囲に抑えるだけでなく、複数年度にわたって予算を管理し収支均衡を目ざす手法がとられる場合が多い。主要国では財政規律を守る指標として、(1)歳出(国債を返済するための費用を除く)を借金に頼らずに歳入でまかなえているかどうかを示す基礎的財政収支(プライマリーバランス)の均衡、(2)国・地方政府の借金(債務)残高を一定額や一定比率(たとえば国内総生産の3%以下)に抑制、(3)軍事費、社会保障費、公共事業費などの具体的な歳出項目の目標削減額・比率の設定、などが採用されている。歳出では、行財政改革による(1)公共サービスの削減、(2)公務員数や公務員給与の削減、(3)歳出増を伴う新政策を実施する場合、他の歳出削減などで代替財源を確保する「ペイ・アズ・ユー・ゴー原則」の徹底、などの手法が、歳入では(1)野放図(のほうず)な国債発行の抑制、(2)増税、(3)減税による景気刺激を通じての法人税収などの増加、などの手法が、それぞれとられる。金融市場から財政規律がないと判断され、政府・地方自治体などの信用が失われると、国債・公債が投げ売りされ、財政破綻(はたん)の危機に瀕(ひん)するおそれがある。このためヨーロッパ諸国では憲法などで均衡予算や健全財政原則を義務づけている。日本では財政法で特例公債(赤字国債)の発行(財政法4条)や日本銀行による国債引受け(財政法第5条)を禁じているが、年度ごとに制定される特例公債法で赤字国債発行を容認し、市中から購入する形であれば日銀が巨額の国債を保有することも事実上容認している。このため日本でも憲法などに財政規律条項を盛り込むべきだとの意見がある。
世界では、2008年のリーマン・ショック後の金融危機により、欧米、日本など各国で国債発行残高が増え、財政規律の重要性が指摘されるようになった。2020年からの新型コロナウイルス感染症(COVID(コビッド)-19)の流行時には、経済を下支えするため、各国は積極財政策をとり、財政赤字が膨らんだ。新型コロナウイルス感染症対策が一巡した2022年以降、財政健全化を目ざすはずだったが、主要国で国政選挙が相次ぎ、得票につながるような、その場しのぎの経済政策がとられやすかったことから、健全化への動きは鈍い。日本政府の借金は1286兆円(2023年12月末時点)に達しているが、日本政府は国・地方の基礎的財政収支を黒字化する目標年次(2024年3月末時点で2025年度)を何度も延期しており、主要国や国際機関などから財政規律を取り戻すよう求められている。