硬骨魚綱スズキ目ツバメコノシロ科に属する海水魚。福島県以南の太平洋岸、若狭(わかさ)湾以南の日本海岸、小笠原(おがさわら)諸島、朝鮮半島南岸、台湾、南シナ海、南アフリカなどインド洋、太平洋に広く分布する。体は長円形で側扁(そくへん)し、尾柄(びへい)は太い。吻(ふん)は円錐(えんすい)形で、前方に突出し、吻長は眼径より長い。目は脂瞼(しけん)(目の周囲や表面を覆っている透明の膜)で覆われる。口は大きく、吻の下面に開き、上顎(じょうがく)の後端は脂瞼の後縁下近くに達する。上下両顎に絨毛(じゅうもう)状の幅の広い歯帯がある。鋤骨(じょこつ)(頭蓋(とうがい)床の最前端にある骨)と口蓋骨にも歯がある。体は細かい櫛鱗(しつりん)で覆われる。側線は尾びれ下葉の上端まで達し、側線有孔鱗数は60~68枚。側線上方鱗数は8~9枚、下方は12~13枚。背びれは2基で、よく離れ、第1背びれは8棘(きょく)で、第2棘と第3棘がもっとも長い。第2背びれは1棘12~13軟条。臀(しり)びれは第2背びれの起部よりもやや後方から始まり、3棘11~12軟条。両ひれの軟条部の縁辺はくぼむ。尾びれは深く二叉(にさ)し、両葉の先端はとがる。胸びれは体の下方にあり、16~18軟条、その下方に5本の長い遊離軟条があり、腹びれの後端を越える。体の側面は黒みがかった銀色で、下方に向かって淡くなる。腹部は白い。側線の上方に鱗列に沿って7~8本の暗色の縦線が、側線の下方に7~9本のより薄い縦線が走る。普通は汽水域や浅い沿岸域の砂や泥の浜にすみ、雨季には汽水域を離れる。幼魚は黒っぽく、河口域で群がっていることが多い。胸びれ遊離軟条に感覚器官があると考えられ、海底に遊離軟条を接触させて餌(えさ)を探しているような行動が観察されている。おもに甲殻類や多毛類を食べるが、とくにエビ類が多い。最大体長50センチメートルほどになる。定置網、刺網(さしあみ)、底引網などで漁獲され、アゴナシの名前で流通することが多い。刺身、煮魚、焼き魚などにされるが、それほどおいしくはない。
本種が属するツバメコノシロ科魚類の浮袋はゼラチン質の接着剤、アイシングラスの材料にされている。本科には日本から本種を含め4種が知られ、胸びれの遊離軟条が4本のミナミコノシロ、5本の本種、および6本のカタグロアゴナシP. sextariusとナンヨウアゴナシP. sexfilisに分かれる。また、カタグロアゴナシには側線の始部に黒斑(こくはん)があるが、ナンヨウアゴナシには黒斑がない点が異なる。