女性を差別、抑圧、支配などから解放することを目ざす思想、または社会運動。女性解放思想ともいい、女性解放運動ととらえることもできる。19世紀に、ラテン語のfemina(女性)という語幹に基づいてつくられたことばである。
フェミニズムの歴史は、1960年代後半から1970年代前半にかけて展開された女性解放運動であるウーマン・リブを境に、それ以前の第一波と、それ以後の第二波とに区別される。さらに、性別以外の属性(人種や階級など)に基づく女性たちの間の差異や多様性にも注意を払い、個人の自由を尊重しようとする、1990年代以降の第三波(「インターセクショナリティintersectionality:交差性」という概念の登場)、その後の♯MeToo(ミートゥー)運動(性的暴力などの被害者のSNSの告発に対して、ハッシュタグ「MeToo(私も)」を使った投稿をして連帯を示す運動)にみられるようなSNS利用など、問題へのアプローチの手法に特色のある、2010年代後半以降の運動を第四波として区別する考え方も示されている。なお、第四波については、「波」として位置づけるかどうかに関して、判断が分かれている。フェミニズムは多様であり、さまざまな立場のフェミニズムがある。
第一波フェミニズムは、近代市民革命によって誕生した「市民」に女性は含まれておらず、男女間に権利の不平等が存在していることに対する異議申立てに始まった。フランスのオランプ・ド・グージュは、1789年の「人間および市民の権利宣言」(いわゆる「人権宣言」)のなかの「人間」や「市民」は男性を意味し、1791年憲法(フランス最初の成文憲法)では女性の権利が無視されていたことから、「人権宣言」の条文に沿って、女性を主語とし男性と同等の権利を求める『女性と女性市民の権利宣言』(いわゆる「女権宣言」)を1791年に執筆した。また、イギリスのウルストンクラフトは、『女性の権利の擁護』(1792)において、J・J・ルソーの女性観に疑問を投げかけつつ、中産階級の女性の精神的自立と経済的自立を主張した。その論旨の展開には、教育・職業の機会均等、参政権獲得要求など、以後のフェミニズムが掲げた主張の萌芽(ほうが)が集約されている。
日本では、女性の社会的地位の向上を目ざした雑誌『青鞜(せいとう)』が1911年(明治44)に発刊されたことが、第一波フェミニズムの始まりとされている。平塚らいてうは、「元始、女性は太陽であった」と発刊の辞で述べた。のちに、平塚らいてうは、市川房枝(ふさえ)などと新婦人協会を結成し、女性参政権運動に取り組んだ。
第一波フェミニズムは、女性の参政権確立を求めるリベラル・フェミニズムに引き継がれ、女性参政権運動が各国で展開された。その結果、女性は参政権を獲得し、権利において男女平等になったが、それにもかかわらず、現実の女性の置かれた状況は変わらなかった。
そうした状況のなか、1960年代後半以降に先進諸国においてウーマン・リブが起こり、第二波フェミニズムが誕生する。
第二波フェミニズムに大きな影響を与えたのが、フランスのボーボアールの『第二の性』(1949)である。「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」と述べ、実存主義の立場にたち、「女が何であるか」は、個々の女性がこれからどのように「実存」していくかによって主体的に変えることができるとした。『第二の性』は、生物学的な性差(セックス)に対して、社会的文化的な性差である「ジェンダー」という概念を生み出した。
アメリカのフリーダンは、1963年に『女らしさの神話』(邦訳名『新しい女性の創造』)を刊行し、中産階級の専業主婦の女性たちが経済的に夫に依存しつつ子育て・家事を行うだけの日々に感じるむなしさからくる不安感を「名前のない問題」として提起した。それがきっかけとなって、女性の生き方に対する疑問が高まり、また、1960年代の社会運動の内部にあった性差別に疑問をもった女性たちの動きとも相まって、ウーマン・リブの運動が生まれた。
日本のウーマン・リブは、1970年(昭和45)の国際反戦デーの日に、「ぐるーぷ・闘うおんな」による女性だけのデモが行われたことに始まったとされている。
ウーマン・リブのスローガンに「個人的なことは政治的である」ということばがある。第一波フェミニズムは、参政権獲得のように公的領域における男女平等の実現に力を注いだのに対し、第二波フェミニズムは、私的領域に注目し、従来私的なものとされた家族や個人生活の問題を政治的な問題として提起した。
第二波フェミニズムは、なにが女性にとってもっとも根源的な抑圧であるかという論点をめぐって、いくつかの潮流に分かれている。代表的な流れとしては、男性による女性の支配を家父長制ととらえ、これを経済体制の違いを超えて存在するととらえるラディカル・フェミニズムや、無償の家事労働を不可欠の前提として成立する資本主義的生産様式に焦点をあてるマルクス主義フェミニズム、性別役割分業論が女性の社会進出の障害となっているとするリベラル・フェミニズム、またラディカル・フェミニズムとマルクス主義フェミニズムの結合を目ざし、家父長制と資本主義のいずれかに焦点をあてるのではなく、家父長制は管理や法・秩序などのシステムを用意し、資本主義は経済・利潤追求のシステムを用意するとみることにより、両者の存在が今日の両性(ジェンダー)関係の形成に重要な意味をもつとする社会主義フェミニズム(統合理論)などがある。