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御伽草子(おとぎぞうし)。作者未詳。室町時代の作。常陸(ひたち)国鹿島(かしま)大宮司の雑色(ぞうしき)であった文太は、製塩業に成功して一躍長者となり、文正と名のった。鹿島大明神(だいみょうじん)に祈って2人の美貌(びぼう)の女子を授かったが、成長した娘は気位が高く、次々とおこる縁談にも応じないでいた。そのうわさを聞いた時の関白の嫡子中将は、見ぬ恋にあこがれ、商人姿となって常陸へ下ると、文正の館(やかた)に宿って、ついに姉娘と契りを結ぶ。姉は都へ迎えられて中将の北の方となり、妹娘は帝(みかど)の女御(にょうご)に召され、文正も公卿(くぎょう)の座に連なって末長く栄えた。致富と出世と長寿というめでたずくめの物語として、江戸時代には正月の草子の読み初めに用いられた御伽草子の代表作である。
[松本隆信]