学校において児童・生徒の心身の健全な発達に資することを目的として提供される食事(食物)のこと。日本では学校で授業のある日の昼食として提供され、食べる体験を通じて、食に関する正しい理解と適切な判断力を養うことにも寄与できるよう図られており、食育と結びついている。
給食の起源は、1786年にドイツのミュンヘンで貧困児童に食事を施したのが始まりとされている。19世紀中ごろに世界各国で実施され、いずれも子どもの救済目的で始まっている。救貧行政、医療衛生行政、学校行政などが関連し、学校という場を使って実施された給食が学校給食である。
世界児童栄養基金(GCNF:Global Child Nutrition Foundation)が行っている「学校給食プログラムに関する世界調査」の2021年版によると、世界人口の81%を占める139か国が回答しており、少なくとも3億3030万人の子どもたちが、学校給食のプログラムを通じて食物の提供を受けている。プログラムの中心は、学校で食事が提供される方法であり、それ以外にも家庭に持ち帰る方法、学校で簡単な食事が提供される方法もある。学校給食の目的は、子どもの栄養状態を改善ないしは増進し、健全な発育に寄与することで共通しているが、それぞれの国が抱える課題に応じて、給食を利用できる子どもが限られている場合もある。たとえば、小学生・中学生のすべての子どもに対する実施率は27%である。国による格差は大きく、貧困、食料不足、栄養不良などのリスクが高い地域での学校給食のニーズは高いと思われるが、そうした地域での普及率が低いのが実情である。給食は、栄養補給の直接的な方法であるため、ビタミンA、鉄、ヨウ素といった栄養素の欠乏が認められる国では、これらの栄養素を穀物や油、塩などに添加して提供している。学校で提供される食事や持ち帰るための配給食糧セットの内容は、穀物がもっとも一般的な食品であり、ついで油、豆類である。野菜や果物を提供している国は約65%で、動物性食品の提供は少ない。こうした提供内容にも国の経済的な状況が関係している。外国や国内からの寄贈で賄われている国もあるが、多くの場合は国内の市場から入手できる食物で構成されている。
以上のように、世界で実施されている学校給食のプログラムは多様である。食物の提供のみならず、栄養や食物についての教育を同時に行い、健康な食事や食物選択の知識を習得し、健全な食生活を実践することができる人間の育成、農業の理解につながるようなプログラムを行っている国もある。
日本における学校給食は、1889年(明治22)に山形県鶴岡(つるおか)町(現、鶴岡市)の私立の小学校で貧困児童を対象に、仏教者が慈善事業として昼食の供与を無償で行ったのが始まりとされている。第二次世界大戦中に一時中断されたが、戦後の経済的な困窮と食料不足から栄養失調の児童・生徒を救済するために、アメリカなどからの援助物資(ララ物資)を受けて再開された。児童の体位の向上が認められ、1954年(昭和29)に学校給食法(昭和29年法律第160号)が制定され、現在の給食につながる枠組みが築かれた。給食が教育活動として位置づけられ、国が財政基盤を補助することが法制化されたことにより、現在まで持続的に発展してきた。また、安全で児童・生徒の成長に適した品質の食事の提供のために、栄養士免許を有する専門職がその運営管理のために配置されるとともに、2004年(平成16)からは栄養教諭制度も創設された。学校給食法は時代の要請に応じ、2008年にその目的や目標を54年ぶりに大改正している。これにより学校給食の目的が、「国民の食生活の改善に寄与する」ことから「食育」へと変化した。学校給食の目標は四つから七つに増え、栄養や健康のことだけでなく、食に対する感謝の気持ちの醸成や、食文化の伝承も含め、学校給食を活用した食育の充実を目ざすことが明確になっている。
日本の学校給食には、完全給食(主食、おかず、牛乳)、補食給食(おかずと牛乳)、ミルク給食(牛乳のみの提供)の三つの食事パターンがある。完全給食の実施率がもっとも高く、小学校で児童数に対して99.2%、中学校で生徒数に対して90.0%(2023年5月時点)であり、小学校は横ばい、中学校は上昇傾向にある。学校給食実施基準によって、年間を通じ、原則週5回、授業日の昼食時での実施を、また栄養基準として学校給食摂取基準を定めている。学校給食実施基準は児童・生徒の食事調査の結果に基づき定期的に見直されており、不足しがちな栄養素は1日当りの推奨量または目安量の3分の1よりも供給量を多く設定している。献立は、この基準に基づいて各地域の教育委員会や学校が作成している。国産や地域の食材を用い、食文化の理解にもつながるよう地産地消が推進されている。戦後、寄贈された小麦粉によるパンを主食として給食が実施されていたこともあったが、食料自給率の高い米を主食とする米飯給食の普及・定着を背景に、「週3回以上」の米飯給食の実施を目標として推進している。また、どの給食パターンであっても牛乳が伴っていることに大きな特徴がある。牛乳は日本人に不足しがちなカルシウムの供給源であり、また、たんぱく質などの摂取源としても、成長期に重要な飲料とみなされている。
日本の学校給食は大きく分けて二つの運営方式がある。調理場が学校に設置されている単独調理場方式と、複数の学校の給食を学校とは異なる場所に設置した共同調理場でつくり、それぞれの学校に運搬する共同調理場方式である。どの方式で運営するかは、学校の設置者(自治体)が決定する。学校給食の実施は学校給食法によって学校設置者の任務と定められており、学校給食にかかわる施設や設備費、調理従事者の人件費などは学校の設置者(公立の場合は市町村などの自治体)負担、食材料費は保護者負担であることが定められている。したがって、調理場の方式は自治体の運営方針によって決定される。共同調理場は、効率化の面でメリットがあることから、共同調理場からの給食提供を受ける学校数、児童・生徒数ともに増加が続いている。また、調理業務の民間委託も増加傾向にある。自治体の予算を用いて運営されるため、運営面の合理化、効率化が不可欠であることを反映している。
日本の子どもの相対的貧困率は先進諸国のなかでも高く、子どもの抱える問題の一つに貧困がある。世帯収入が子どもの食生活に影響を及ぼしていることは明らかになっており、中学校給食の実施率の向上はその解決策の一つとして取り上げられ、また保護者負担の給食費を無償化する自治体も増加している。財政的な基盤の確保に向け、調理業務の委託化、共同調理場の大型化など、学校給食の持続のためにさらなる合理化が求められる。また、少子高齢化の進展による労働力の減少の影響もあり、安全・安心な給食づくりに必要な技術や知識を有する人材の確保にも問題があり、給食の制度を維持していくための課題は多い。
世帯の経済状態によらず、学校給食は児童・生徒の適切な栄養素摂取や多様な食体験の場としての役割も担っている。食物アレルギー等への対応など、ひとりひとりの児童・生徒に対するきめ細かな栄養管理も重要であり、給食の質を維持しつつ、制度の維持・発展につながる仕組みの再構築が求められる。