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大道芸の一種の手品や曲芸のたぐい、あるいはそれを演ずる者のこと。禅家においてすべてを放擲(ほうてき)して無我の境に入ることを「放下す」というところから、品玉(しなだま)や輪鼓(りゅうご)をほうり投げて曲取りをする曲芸をもっぱらとする僧形の下級芸能者をさしていうようになり、放下師、放下僧ともいった。奈良時代に中国から伝来した散楽雑伎(さんがくざつぎ)から田楽(でんがく)法師を経て、さらに放下僧の手に渡ったという芸統で、室町時代ごろに放下の芸として定着した。品玉、輪鼓、手鞠(てまり)、筑子(こきりこ)などを行って大道に立ち、あわせて手妻(てづま)(手品)や人形回しも演じた。1669年(寛文9)京都において豊後屋団右衛門(ぶんごやだんえもん)なる者が、「放下物真似(ものまね)」の名代を許されて歌舞伎(かぶき)や人形芝居などに伍(ご)した。小屋掛けを許された放下は、鞠の曲、枕(まくら)の曲、籠抜(かごぬ)けなどを興行した。一方大道芸となった者は「辻(つじ)放下」ともよばれ、非人階級に扱われて車善七の差配を受けた。明治以後名称は絶えてしまったが、その芸は寄席(よせ)芸に入って残っている。伊勢太神楽(いせだいかぐら)にも、綾(あや)とりの曲、水の曲、手鞠の曲、傘の曲などが「放下芸」として残っている。
[織田紘二]