硬骨魚綱ワニトカゲギス目ムネエソ科ムネエソ亜科の総称、あるいはそのなかの1種であるが、一般にはムネエソ属のものをさす。ムネエソ科には体が短く、体高がかなり低い種からきわめて高い種まで含まれる。目は大きく、頭長の半分以上あり、上向きで、望遠眼をもつ種がいる。望遠眼は、望遠鏡のように筒状に突き出した目で、遠方から低照度の発光魚の光をとらえることができる。吻(ふん)は短い。口の大きさは小さいか中くらい。口ひげはない。体の腹側に沿って、2群またはそれ以上の明瞭(めいりょう)な発光器群を形成する。皮膚は淡褐色から暗褐色で、しばしば銀白色に反射するグアニン色素で覆われ、通常、発光器は銀色と黒色である。
ムネエソ科は、体高が低くて伸長し、背びれの前方に骨質板や棘(きょく)状突起がないなどの特徴をもつキュウリエソ亜科と、体高が著しく高く、強く側扁(そくへん)し、背びれの前方に骨質板や棘状突起があるなどのムネエソ亜科に分かれる。
キュウリエソ亜科には7属が含まれるが、そのうち臀(しり)びれの基底(付け根の部分)に並ぶ臀びれ発光器が連続するキュウリエソ属、臀びれ発光器がよく離れているホシエソ属、および臀びれが2部に分かれるオオメウキエソ属の3属が日本から報告されている。
ムネエソ亜科には臀びれの基底部に透明な区域があるムネエソ属(世界から4種、日本から3種)、腹部縁辺にある腹部発光器が12個、腹部上部発光器が6個あるテンガンムネエソ属(世界から7種、日本から4種)、および腹部発光器が10個、腹部上部発光器が3個あるホウネンエソ属(世界から31種、日本から7種)の3属が含まれ、これらのすべての属が日本から報告されている。ムネエソ属とテンガンムネエソ属は世界の温帯、亜熱帯、熱帯域に広く分布し、それぞれは沖合いの水深500~1500メートルと100~600メートルの中深層域~漸深層に群れをつくって生息する。他方、ホウネンエソ属はおもに西太平洋の沿岸の50~400メートルにすむ。ムネエソ科魚類は主として小形魚類および甲殻類、環形動物、毛顎(もうがく)類、軟体動物などの動物プランクトンを食べる。
ムネエソSternoptyx diaphana(英名diaphanous hatchetfish)は、北海道の日本海沖、北海道から土佐湾までの太平洋沖、南西諸島近海、沖縄舟状海盆(しゅうじょうかいぼん)(トラフ)、小笠原(おがさわら)諸島近海など太平洋、インド洋、大西洋の熱帯から温帯海域に広く分布する。体は著しく強く側扁する。頭部の腹縁は下顎先端からほとんど垂直に降下した後、さらに後方に向かって腹びれの起部まで降下し、そこから後方は尾柄(びへい)に向かって急激に上昇する。吻はきわめて短い。目は大きくて円形で、望遠眼ではない。両眼間隔域に2条の隆起があり、縁辺に弱い鋸歯(きょし)がある。口も大きく、ほとんど垂直に開く。上顎の後端は目の中央下方を越える。上顎の前部と側部に3列の小さい歯があり、下顎の前方に4~5列の歯がある。口蓋骨(こうがいこつ)に1~3本の小さい歯があるが、鋤骨(じょこつ)(頭蓋床の最前端にある骨)には歯がない。前鰓蓋骨(ぜんさいがいこつ)の隅角(ぐうかく)部は下方に突出する。腹びれ基底前方に1列に並ぶ腹部発光器は10個で、腹部上部発光器はない。臀びれ基底にある臀びれ発光器および、臀びれの前にある臀びれ前発光器は3個。背びれは9~10軟条で、背びれの直前に大きい三角形の透明な板(背刀(はいとう))があり、その上縁に細かな歯が鋸歯状に並ぶ。臀びれは13~14軟条で、基底に沿って長三角形の透明な皮膜がある。胸びれの基底は目の後縁下方よりやや前方にある。腹びれは小さく、その基底直前に小棘(後部腹縁棘)があり、二叉(にさ)する。頭部と体の背面は暗褐色で、ほかは銀白色。発光器の周辺は黒褐色で、各ひれは淡色。最大体長は6センチメートルになる。水深500メートル以深の中深層に生息する。
ムネエソ属には本種以外にオビムネエソS. obscuraとムネエソモドキS. pseudobscuraの2種が知られている。本種は臀びれ基底部にある透明な皮膜の後端が狭いV字形であることで、この部分が広い他種と区別できる。