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日本大百科全書(ニッポニカ)

大麻取締法

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大麻取締法
たいまとりしまりほう

麻薬の一種である「大麻」を取り締まるための法律。1948年(昭和23)に制定された「大麻取締法」(昭和23年法律第124号)は、2023年(令和5)の改正以降、大麻栽培規制に特化した「大麻草の栽培の規制に関する法律」となり、大麻の所持や譲渡の規制については「麻薬及び向精神薬取締法」(昭和28年法律第14号)で規制されている。本項では大麻規制の歴史と国際的潮流を中心に記述する(国内の現状の法規制については、それぞれの項を参照)。

[園田 寿]2025年10月21日

前史

大麻草(アサ)は、日本には縄文時代に伝わったとされているが、そこに含まれている精神活性物質(THC、テトラヒドロカンナビノール)は少なく、吸煙・吸食の風習はみられなかった。大麻草の繊維が強靭(きょうじん)で吸湿性に優れていたことから、繊維が衣服や綱などに活用され、種子は食用にもされてきた。また光沢のある大麻草の繊維が邪気を払うとされ、神社の注連縄(しめなわ)などにも使われてきた。

 その後、とくに19世紀に入り、中国など世界各地でアヘン禍が問題視され、大麻規制も俎上(そじょう)に上ることになるが、国際的な大麻規制の端緒になったのは、1909年にアメリカ主導で行われた「上海(シャンハイ)アヘン会議」である。そしてこれが、1912年に成立するアヘン取引を制限する「ハーグ・アヘン条約(万国阿片(あへん)条約)」へとつながっていく。「インド大麻」(Cannabis Indica)は、1925年の第二アヘン条約の締結により、麻薬として指定された。日本でもこれを受けて1930年(昭和5)に「麻薬取締規則」が制定されたが、日本在来の大麻(アサ)(Cannabis sativa L.)は規制されなかった。その後、麻薬取締規則を統合して旧々「薬事法」(1943)が制定され、インド大麻を麻薬として規制する麻薬取締規則の原則は維持された。

[園田 寿]2025年10月21日

第二次世界大戦後

戦後、連合国最高司令官総司令部(GHQ)は、麻薬に関して次々に覚書を発した(いわゆるポツダム省令)。そして、「麻薬原料植物ノ栽培、麻薬ノ製造、輸入及輸出等禁止二関スル件」(昭和20年厚生省令第46号)により、大麻草の栽培は全面的に禁止され、大麻草を含む麻薬の製造や輸入・輸出も原則として禁止された。さらにポツダム省令の一つとして「麻薬取締規則」(昭和21年厚生省令第25号)が制定され、厚生大臣(現、厚生労働大臣)の免許を受けた取扱者以外の者については、大麻を含めて麻薬の製剤・小分け・販売・授与・使用・所有・所持などが禁止された。

 しかし日本では古来、大麻草は衣料や綱などに用いられており、大麻草の需要があったため、例外的に繊維および種子の採取もしくは研究目的の場合にかぎり大麻草の栽培を認める「大麻取締規則」(昭和22年厚生省、農林省令第1号)が制定された。

 1948年(昭和23)には、旧「麻薬取締法」(昭和23年法律第123号)が制定されるのであるが、大麻についてはその栽培者がおおむね農業従事者であり、モルヒネなどの麻薬は医療薬業関係者が深いかかわりを有することなどの違いもあり、旧麻薬取締法とは別個の法律として「大麻取締法」が制定され、「大麻取締規則」は廃止された。

 「大麻取締法」は、大麻草の取扱いを学術研究および繊維・種子の採取のみに限定し、大麻の不正使用を防止するため、大麻取扱者を免許制とし、免許を有する者以外の者の大麻の取扱いを禁止した。具体的には、大麻の輸入・輸出・所持・栽培・譲受・譲渡・使用等ならびに大麻から製造された医薬品の施用・施用のための交付等を禁止し、違反者に対し3年以下の懲役もしくは3万円以下の罰金という刑罰(併科もあり)が定められた。ただし、大麻の不正使用自体を罰する規定は設けられていなかった。

 その後、大麻取締法はしばしば改正されたが、法定刑の引上げおよび大麻から製造された医薬品の受施用行為の禁止を規定した1963年の改正、営利目的犯を加重処罰し、両罰規定(違反した個人だけでなく、所属する法人やその代表者にも刑罰を科す規定)を設けた1990年(平成2)の改正、さらに大麻の定義から大麻の種子およびその製品を明示的に除外し、大麻の栽培・輸出入・譲受・所持等の罪について刑法第2条の例による国外犯処罰規定を設けた1991年の改正が重要である。

[園田 寿]2025年10月21日

大麻規制に関する国際的な潮流

現在の国際的な薬物管理体制は、おもに「麻薬単一条約」(正式名称「1961年の麻薬に関する単一条約」、1961年採択)、「向精神薬条約」(正式名称「向精神薬に関する条約」、1971年採択)、「不正取引防止条約/麻薬新条約」(正式名称「麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約」、1988年採択)の三つの国連条約に基づいている。これらの条約によって、基本的に医療目的による薬物へのアクセスを確保しながら、非医療的使用を禁止するという仕組みが構築されてきた。

 しかし世界的に厳格な取締りが行われているにもかかわらず、違法薬物の生産や供給、使用者の数は増え続けており、闇市場に不正な利益が流れていった。また他方では、多くの開発途上国で必要な医薬品へのアクセスが制限されているというのが現状である。こうして、現在の国際的な薬物規制体制は、結果的に医療環境を悪化させ、人権の侵害につながっているという認識が広がってきた。

 そのようななかで、最近では、人権を議論の中核にすえる動きや、非犯罪化、公衆衛生に基づいたハーム・リダクション(薬物を全面的に禁止するのではなく、個人の自主性を尊重しながら、社会的弊害や健康被害などの薬物使用による二次被害を低減させていく政策)の導入、一部物質の合法化など、国や地域レベルでさまざまな改革が行われている。大麻に関しては、ウルグアイ(2013)やカナダ(2018)、ヨーロッパ諸国、アメリカの多くの州など、娯楽的な大麻使用を合法化ないしは非犯罪化する国や地域も増えてきている。

[園田 寿]2025年10月21日

日本の現在

前述したように、2023年の大麻取締法改正によって、大麻は「麻薬」に分類されて、「麻薬及び向精神薬取締法(麻向法(まこうほう))」によって規制されることになった(大麻取締法は「大麻草の栽培の規制に関する法律」に変更された)。

 そもそも従来の大麻規制を支えてきたのは、①大麻には薬効がない、②大麻には依存性があり濫用の危険性がある、③薬物の濫用については懲罰的断薬が有効であり、刑罰が薬物依存症治療のきっかけを与える、という三つの主張である。今回、第一の点については医学的な研究成果を基に知見が改められた(医療大麻の解禁)。しかし懲罰による断薬が濫用を抑え、依存症治療のきっかけになるという考えは、大麻が「麻薬」に組み込まれたことによっていっそう強化されている。すなわち、大麻の使用行為については従来罰則が存在しなかったが、大麻が「麻向法」による規制対象とされたことから、大麻の使用行為が麻薬施用と評価され(最高7年の拘禁刑)、所持や栽培、輸出入などについても結果的に刑が加重された。

[園田 寿]2025年10月21日

©SHOGAKUKAN Inc.

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